検察の尋問により被告の「本性」が現われた

これだけなら、欲望の処理法を誤った男としてすぐ忘れてしまったかもしれない。だが、検察の尋問で様相は一変する。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/KatarzynaBialasiewicz)

「あなた、相手は誰でも良くて、ただ切って楽しんでたふうなこと言ってますけど、被害者を駅前の広場で見つけてついていってますよね」

防犯カメラに、被告人が被害者の後を追う映像がバッチリ写っているという。だとすれば、被告人は切る相手を物色していたことになるが、どうやらそれだけではなかったらしく、こんなことを言い出した。

「あのときは酔っ払ってまして、誰かナンパしようかなとうろうろしていました。(被害者が)酔って歩いていたので、声をかけようと思いましたが、タイミングがなかったものですから、様子をうかがううち、(誘っても)無理だろうと……。で、あきらめて切ることにしました」

無理ありすぎだ。ナンパと切ることはぜんぜん違うではないか。ナンパを試みて失敗する男など、週末の都会にはいくらでもいるだろう。でも、腹いせにカッターナイフで尻を切るなんて聞いたことがない。欲望の方向が違うからだ。

被告人は酒好きで、休日前夜は繁華街で一人飲みをするという。独身だから彼女が欲しい。周囲のカップルがうらやましい。酔った女を飲みに誘って、あわよくば自分もうまくやりたいと思う。そこまでは、よくあることだろう。

でも、酒で気が大きくなっても、被告人には度胸も自信もなく、事件のときも結局、声すらかけずに後をついて回るだけだった。そして、カッターナイフを手にするとがぜん大胆になり、迷うことなく切っている。

衣服やバッグを傷つける行為という歪んだストレス発散法

検察官の見立てはこうだ。被告人はナンパ目的で酔った女性を物色していたのではなく、最初から切る目的で、好みの相手を探していた。気づかれてはならないことや、自己の欲望を刺激するターゲットとして、酒に酔った派手めな女性に狙いをつけ、衣服やバッグを傷つける行為を繰り返していた。被告人はあくまでも切る相手を物色していたのである――。

振られた腹いせでもなく、リア充への嫉妬でもなく、若い女性を安全に痛めつけたい。そういうストレスの発散法なのだ。被告人には、女性部屋に忍び込んで暴力をふるい捕まった前科がある。そこを重くみる検察は、再犯の恐れが高く、つぎは性犯罪を引き起こしかねないと強調して尋問を終えた。求刑は1年。判決には執行猶予がついた。

再犯を防ぐ方法として被告人が口にしたのは、何か他の趣味を持つこと。健全な楽しみがあれば、自分は女性の尻など切らないと言いたげだった。性癖ではないと言いたいのだろうが、筆者は仕事のストレスを減らすことこそが再犯防止の近道だと思う。

仕事でイライラが生じ、発散すべく酒を飲み、気が大きくなってカッターを持ち歩くというサイクルなのだから、入り口である仕事のところをなんとかしないとどうにもならないだろう。

趣味は万能ではない。まして50を過ぎた男が新しい趣味を見つけることはたやすくない。

これ、被告人だけの問題ではないと思う。仕事をすれば多かれ少なかれストレスはついて回るものだ。カンペキな人なんていそうでいない。頼もしさ満点の上司だって、楽しげに見える同僚だって、仕事やプライベートのどこかに問題を抱えているものだ。

異動あり、転勤あり、転職あり。定年世代までの道程は長い。それを自覚した上で、ストレスを許容範囲内に収め、日常生活を回していく。仕事の能力も大事だが、セルフコントロールに長けていることも、パンクせずにビジネスマン生活をまっとうするために欠かせないことではないだろうか。

(写真=iStock.com)
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