39歳独身でアルバイトの男が、見知らぬ女性の胸をわしづかみにした。男は強制わいせつの疑いで逮捕・起訴されたが、女性との間で示談が成立し、執行猶予付きの有罪判決を受けた。男の両親は「再犯を防ぐため、自分たちが監督する」と誓ったが、長年、裁判傍聴を続ける北尾トロ氏は「この男は『またやるな』と確信した」という。なぜ、そんな直感が働いたのだろうか――。

女性の胸をもんだ39歳独身アルバイターの19日前の「前歴」

5月、東京地方裁判所でふらりと入った強制わいせつの初公判。傍聴席に座って間もなく、手錠をはめられた男性の被告人が入廷してきた。裁判長が本名、住所、本籍、職業を確認。プライバシーを守るため、被害者女性の実名は出さないように要請してから、検察による冒頭陳述に移った。

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●検察:「被告人は○月○日午前1時過ぎ、通行中のAさん(被害者)に後ろから抱きついて胸をもみ、さらにAさんを追いかけ、背後から両腕を抱え込んで再び抱きつこうとした。大声で叫ぶと口を押さえようとしたので、Aさんは必死で逃げた」(主旨)

被告人は39歳のアルバイトで独身。「前歴」が一度あり、その事件も強制わいせつだったという。なお「前科」は逮捕されて有罪判決を受けた場合につくもので、「前歴」は逮捕されたが起訴されなかった場合につくものだ。

弁護人は、全面的に罪を認めて争わないこと、Aさんに対する謝罪文を書いていること、示談が成立していること、証人として出廷こそしないものの、被告人の両親が嘆願書を提出し、社会復帰後は監督する旨を誓っていることを述べた。

▼19日前に女性の胸を触って示談に持ち込み、すぐまたやらかして御用

裁判において被害者側との示談が成立している点は大きく、執行猶予付き判決になることは間違いない。深夜の路上で背後から抱きつくなんて最低の行為だが、興味をひく要素はなく、この段階で数名が席を立った。

僕がそうしなかったのは、弁護人からの被告人質問で、前歴の内容が明かされたからである。なんとこの被告人、今回の事件を起こす19日前に路上で女性の胸を触っていたのだ。速攻で謝罪して示談に持ち込み、起訴は免れたが、すぐにまたやらかして御用になったのである。全然抑えが効かない。常習犯だって、しばらくはおとなしくするものだろう。

いったいなぜ、性懲りもなくやらかしてしまったのか。被告人の言い分はこうだった。

「あの日はうれしいことがあり、一人で飲みに行った後でした。店を出てコンビニに寄ったとき、女性2人組を見かけ、そのなかのひとり(被害者)が好みのタイプでした。コンビニを出てラーメン屋に行く途中、その女性がひとりで暗い道に向かって歩いていたので、胸を触りたくなってしまい、背後から近づいて両胸をわしづかみしたのです」

最初はうまくいかず、さらに追いかけて胸を触ったという。「どうしても」の気持ちがにじむ、欲望と直結した行動だ。検察は、チャンスがあれば下半身も触ろうと思ったのではないかと追求したが、それは断固否定。何度も「わしづかみした」と繰り返し、あくまで胸を狙った犯行であることを強調した。