堅物な仕事人間ほど「落とし穴」にハマりやすい
「(捕まってから)警察の方から連絡があり、信じられない思いで事件のことを聞きました。夫が大きなストレスを抱えていることは、まったく知りませんでした。私がもっと早く気づいていれば、今回のようなことは起きなかったかもしれません」
情状証人として出廷した被告人の妻が、事件について尋ねられたとき、上記のように答えるシーンを幾度も目にしてきた。
これに続く言葉も大体決まっていて、次のようなものだ。
「私にも至らぬ点があったと反省しております。二度と事件を起こさないよう、今後は夫婦の会話を増やし、お互いの状況を伝え合うようにします。離婚は考えていません」
結婚後、最大のピンチを夫婦の協力で乗り切ってみせるという誓いだが、この中で注目したいのは、被告人が感じていたストレスを、もっとも身近な家族が知らなかったことである。
家庭の不和や子育てのときもあるが、被告人が理由として挙げるのは、圧倒的に仕事上のストレス。きついノルマ、残業の多さ、パワハラ、面倒な人間関係などが原因となり、精神的・肉体的に追いつめられた末、なかばヤケ気味に犯罪に走ったのだという。
ストレス系事件の代表格は、覚醒剤使用、性犯罪(おもに痴漢や性器露出)、児童買春、暴行(酔っ払ってのケンカ)、万引きなど。初犯なら執行猶予付判決になるものが多い。そのため、被告人サイドとしては、過度なストレスさえなければ事件は起きなかったということにして、執行猶予を確実なものにしたいわけだ。
もちろん、被告人の言うことをすべて信じるわけにはいかない。本当は欲望のおもむくままにやったのに、ストレス過多を言い訳に使う輩が大多数だろう。だが、中には積もり積もったストレスで精神状態が不安定になり、魔が差したように犯罪行為に走ってしまう、そんなタイプの被告人も存在する。
中堅企業の40代課長が電車内で女子高校生に性器露出
印象深かったのは、かれこれ10年以上前に傍聴した公然わいせつ事件。電車内で女子高校生に露出した性器を見せた罪で捕まった40代サラリーマンだ。
中堅企業の課長職で子供が一人。帰宅はいつも終電近く、忙しいだけではなく、組織内の人間関係に悩み、思うような結果が出せないことに苦しんでいた。典型的な仕事人間で、これといった趣味はない。家庭内では家族から冷たくされ、妻からは一緒に寝ることを拒否され、孤独感は募るばかりだったそうだ。
そうしたフラストレーションが積み重なり、とうとう臨界点を突破。「電車の中で性器を出すことでしか発散できなかった」と被告人が涙ながらに語った。表情は憔悴しきっており、短期間で相当痩せたのではないかと思われた。