日本企業に対し、韓国人の元「徴用工」への賠償を命じた韓国の大法院(最高裁)判決が波紋を広げている。日本からの批判は「日韓請求権協定によって解決済み」というのがおおかたの論拠。しかしそれでは本質的な問題解決にはほど遠い。橋下徹氏の見方とは? プレジデント社の公式メールマガジン「橋下徹の『問題解決の授業』」(12月11日配信)から抜粋記事をお届けします――。

日本側のおおかたの韓国批判は、自分の頭で考えない典型例だ

これまで2回のメルマガにわたって韓国大法院(最高裁)のいわゆる「徴用工」判決について論じてきた(Vol.127【韓国徴用工問題(1)】日本には法的“ケンカ”の用意があるか? 安倍政権が見落としてはならない重要ポイント/Vol.130【韓国徴用工問題(2)】2件目の「賠償命令」でいよいよ冷え込む日韓関係。収拾のために何をすべきか?)。日本国民のおおかたは、「1965年の日韓請求権協定で全て終わったのだから、韓国はいまさらぐちゃぐちゃ言うな!」の一点張り。僕はそのような日本の態度は間違っているという持論。2007年の日本の最高裁判決を土台に考えるべき、ということをこれまで論じてきた。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/neirfy)

想像はしていたけど、僕の意見に対しては、ほぼ批判一色。でもね、多くの人から批判をもらって、ますます自分の持論は正しい方向だなということを確信したよ(笑)

僕はこれまで持論を公にしては激しく批判されることを何度となく経験してきた。というよりも、激しく批判を受けるために持論を公にしてきたというほうが正しいかもしれない。

世間の凝り固まっている意見、考え、思考に対して、違う考えもあるんじゃないの? という切り口を提示することも政治家の重要な仕事だと思っていたからね。そして、世間の批判を受けて、やっぱり自分が間違っていると感じたら持論を取り下げたり修正したりすることもあるし、逆に自分が正しいと確信するときもある。自分が正しいと確信するときというのは、世間の批判に論理性がないときだ。

○○があるから当然だ。
○○から見れば当然だ。

このフレーズで結論を導いているときほど怪しいことはない。なぜなら、このような結論の導き方は論理的ではない、すなわち自分の頭でしっかりと考えていないからだ。

韓国大法院の徴用工判決についても、「1965年の日韓請求権協定があるから、韓国はグダグダ言うな!」というのは自分の頭でしっかり考えていない典型例だ。

(略)

今回の韓国大法院の判決について、日本の政治家の多くや、威勢のいいインテリたちは、「韓国大法院の判決はおかしい! 韓国政府はそれに従うな!」と主張する。もしそのように主張するなら、フェアの物差しからは、日本が他国から「日本の最高裁の判決はおかしい! 日本政府はそれに従うな!」という批判を受け入れなければならない。日本の最高裁も外国人の主張を却下する判決を多く出しているが、もしその外国人が属する外国政府から日本の最高裁判決に従うな! というクレームが来た場合に、そのクレームを受け入れるとでもいうのか。

今、話題になっている日産元会長のカルロス・ゴーンさんの事件。フランスから見れば、弁護人が立ち会わない日本の捜査機関の取り調べは超野蛮なことで、日本の刑事裁判なんて信じられない! となるだろう。取り調べの違法性が強い場合には「毒樹の果実論」という法理論によってそれだけで無罪になるというのが先進国共通の原理原則だ。では、仮にゴーンさんが最高裁まで争って有罪判決を受けたとして、フランス政府が毒樹の果実論を持ち出し、日本の最高裁の判決に日本政府は従うな! とクレームを付けてきた場合に、日本政府や我々日本国民はそのクレームを受け入れるのか。