「HIV感染を防ぐために必要な遺伝子の改変だ」と主張

香港で開催されたゲノム編集の国際会議「ヒトゲノムサミット」で、中国の研究者が「受精卵の遺伝子を改変して双子の赤ちゃんを誕生させた。双子の名前はルルとナナだ」と衝撃的な発表を行った。

HIV(エイズウイルス)に感染した男性と、感染していない女性との間の受精卵を操作し、生まれた赤ちゃんにHIVに感染しにくい体質を持たせたというのだ。

中国の研究者は「ゲノム編集技術を人に施した世界初の成果で、HIVの感染を防ぐために必要な遺伝子の改変だ」などと主張したが、会議に出席していた世界中の研究者は「安全性と倫理面で大きな問題だ」と一斉に批判した。

2018年11月28日、講演で「遺伝子改変を行ったヒトの双子を誕生させた」と発表した中国の賀建奎・南方科技大学副教授。(写真=AFP/時事通信フォト)

この中国の研究者の行為は強く批判されるべきである。なぜならゲノム編集技術は、外見や体力、知能を親が望むように作り上げる「デザイナーベビー」の誕生につながるからである。

発表したのは、中国の南方科技大学の賀建奎(フォージエンクイ)博士(副教授)。賀氏の発表は11月28日に行われたが、同サミットは翌29日に「深い憂慮を感じる。国際的な基準に合致していない。無責任で透明性に欠ける」との声明を出して閉幕した。

ゲノム編集ベビーを「作り話」と疑う専門家はいなかった

全国紙の社説の中で賀氏を真っ先に批判したのが、11月29日付の毎日新聞だ。

冒頭から「発表内容が事実だとすると、医学的にも倫理的にも正当化できず、生まれてくる子どもを実験に使ったに等しい」と書く。見出しも「事実なら重大な倫理違反」と掲げる。

ただ本文にも見出しにも「事実だとすると」「事実なら」と書いている。栄誉を望んで虚偽の発表まで行った研究者が世界各国にこれまで存在したことで、毎日社説は科学者たちに不信感を持っているのだろう。賀氏がそれなりのデータを示したが、問題の双子の所在はプライバシーを理由に明かしていないから真偽不明と考えたのかもしれない。

しかし賀氏が公の場で公表したことは間違いない事実だ。「事実なら」と書くと、どうしても批判の矛先が鈍くなる。

それに同サミットの会場で、ゲノム編集ベビーを「作り話だ」と疑う専門家はいなかったという。それだけ現実的に十分可能な内容だからだ。