子どもの学力を向上させるためには何が必要か。評論家の白川司さんは「学力世界一と評されたフィンランドでは、暗記や反復練習より自主性を重んじた結果、とくに数学・理系分野で学力が低下している。教育で重要なのは、基本と応用の切り分けだ」という――。
九九が書かれた木製のキューブ
写真=iStock.com/Gal2007
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世界で絶賛された「フィンランド式」

2021年、フィンランド政府は義務教育を18歳まで延長し、これまでの学食費のほか、教材や備品を含めて全面的に無償化すると発表した。

このニュースは日本でも大きく報じられ、「人への投資の拡大策」「先進国の理想的な教育のあり方」などと、各方面で好意的に受け止められた。

だが、この義務教育延長策は、教育の成功をさらに押し広げるための改革ではない。この政策が実施された裏には、フィンランドにおける深刻な教育問題が横たわっている。

フィンランド式教育は、2000年代初頭に、OECDによる学力調査であるPISAでトップクラスの評価を受け、世界中でフィンランド式教育ブームを起こした。

フィンランド式教育の最大の特徴は、「自分の頭で考える力」を最優先する思想にある。暗記や反復練習は時代遅れとされ、探究型・プロジェクト型学習が中心に据えられた。

日本においてもフィンランドは「世界一の教育大国」と賞賛され、悪名高い「ゆとり教育」を採用するのに影響を与えたと言われている。

15歳なのにパーセント計算ができない

その後のフィンランドについて、日本ではあまり顧みられることはないようだが、実際には、フィンランドでは数学・理系分野を中心に学力低下が続き、PISAの数学的リテラシーでは2009年以降、順位が急降下している。2003、2006年には世界1位だった科学的リテラシーも右肩下がりだ。

【図表1】日本とフィンランドのPISA国際順位
文部科学省「OECD生徒の学習到達度調査(PISA)の調査結果」より編集部がGeminiで作成

フィンランド国内の研究機関の調査でも、日本で中学3年生にあたる学生の3分の2が「100ユーロの20%はいくらか」といったパーセント計算ができないという壊滅的な結果が出ている。

学力低下には移民増加や地域格差など複合的要因も指摘されているが、主な理由として、子どもたちの自主性を極端に優先した結果、理数系の勉強を避ける子どもが増えてしまった結果ではないかと考えられる。

ところが、自主性尊重の弊害が明らかになっても、フィンランドは基本的な教育方針を修正していないため、明確な学力回復の兆しはなく、理数系の学力低下は看過できない規模に達している。そこで、フィンランド政府は「義務教育の年限を2年延ばす」という策をとったわけである。