指導者が異常でも、国民は馴れてしまう

2018年6月、トルコの大統領選挙で現職のエルドアン大統領が再選された。トルコでは17年4月、議院内閣制の首相職を廃止して大統領に権限を集中する「実権型大統領制」に移行する憲法改正が国民投票で承認されている。実権型大統領は議会の解散権や非常事態発令権、副大統領や閣僚、上級判事その他公務員の任命権など絶大な権限を有する。司法にさえ介入できるのだ。「強権」の制度化に成功したエルドアン大統領は前倒しで実施した大統領選に勝利して実権型大統領として再スタートを切った。憲法改正で最長2029年まで現職を続けられる。いよいよ独裁に歯止めがかからなくなるのは自明だろう。

劇場型外交(NATO首脳会議に出席するトランプ米大統領、2018年7月11日)。(AFLO=写真)

トルコは建国の父アタチュルクが国是に掲げた「世俗主義(≒政教分離)」によってイスラム教と民主主義を両立させながら近代化を成し遂げてきた。しかしエルドアン大統領は世俗主義を放棄してイスラム回帰に傾き、強権化した。16年のクーデター未遂事件は、「自作自演」の捏造説もまことしやかに囁かれている。非常事態宣言は解除されたが、その間に事件への関与を理由に逮捕・拘束された軍人や役人、ジャーナリストなどは8万人に及ぶ。職を追われた者を含めると10万人以上と言われる。何の証拠も示さずに政府がクーデターの首謀者を決めつけて、その関係者8万人を粛清する社会というのは明らかに異常だ。しかし異常な強権政治は憲法改正によって合法化され、平常化した。大統領選の得票率は53%。国民の半分以上はより強力な権限を持ったエルドアン大統領が統べる“日常”を支持したのだ。

異常が日常化して、それが“正常”になると民主主義というのは無力なもので、異常な状態に馴れた国民は正常な判断ができなくなる。たとえばベネズエラはチャベス政権時代から続くインフレがさらに悪化して、現金不足で物々交換でしかモノが手に入らない状況に陥っている。国民経済は完全に破綻して、政府は有効な政策を打ち出せないにもかかわらず、チャベスの死後に体制を引き継いだマドゥロ政権は今も続いている。トルコもベネズエラも通貨が暴落し、インフレによって国民生活は困窮しているが体制は継続している。

ドゥテルテ大統領が主導する苛酷な麻薬撲滅作戦が続くフィリピンも異常が日常化している。ドゥテルテ政権の2年間で司法手続きを経ないで警察に射殺された麻薬犯罪容疑者は5000人を超えると言われているが、犠牲者の多くは末端の密売人や麻薬常用者だ。麻薬撲滅作戦の効果を含めて政策能力を疑問視されながらも、ドゥテルテ大統領は高い支持率を維持している。