「異常なリーダーの権化」は米トランプ大統領だ

エジプトのシシ大統領もタイのプラユット暫定首相も実質的には軍事クーデターで政権を奪い、そのまま居座っている。異常が平常化して日常になる。異常なリーダーが日常化して、正常になる――。今やこれは世界的な傾向で、独裁の弊害を露呈しながらも高い支持率を維持しているのは、ロシアのプーチン政権も日本の安倍政権も同じだ。

そして日常化した異常なリーダーの権化は、やはり米トランプ大統領だ。泡沫のトンデモ候補と見られていた共和党指名候補のトランプが大統領選を勝ち上がったとき、アメリカのインテリジェンスやジャーナリズムは「3カ月持たない」とか「長くて1年」と高をくくっていた。しかし、トランプ大統領は生き残って、中間選挙を迎えようとしている。

トランプ大統領の異常さを際立たせているのは、「歴代の大統領がやったことのないことをオレはやってやる」という行動原理だ。それが建設的な方向に出てたまたま米朝首脳会談は実現したが、多くは「アメリカファースト」を理由に歴代大統領が築いてきた秩序やルールの破壊にエネルギーが注がれてきた。オバマ前大統領が心血を注いだオバマケア(医療保険制度改革)の廃止、ジョージ・ブッシュ元大統領が署名して発効したNAFTA(北米自由貿易協定)の見直し、そしてメキシコ国境の壁建設は大統領選からの目玉公約だ。しかし代替案の提出に失敗してオバマケアの撤廃は頓挫。壁の建設も進んでいない。

メキシコでは「向こうがアメリカファーストなら、こっちはメキシコファーストだ」という左派のオブラドール氏が12月に大統領に就任するが、「壁の建設費を払え」というトランプ大統領の要求を一蹴した。NAFTAの見直し交渉も難航している。つまり大統領選で掲げた公約はほとんど実現していないのだ。実現したのは地球温暖化対策の国際的枠組みである「パリ協定」やTPP(環太平洋経済連携協定)からの離脱、それから在イスラエル大使館をエルサレムに移転したことぐらいだ。看板公約は実現せず、実現した政策は国際社会から強い批判を受けている。しかしトランプ大統領は動じない。それどころか、20年の大統領選で再選を目指す意向まで表明するのだから、やはり異常なリーダーと言うほかない。

とはいえ、アメリカ人もその異常さにだいぶ慣れてきて、トランプ大統領の派手な言動がないと物足りなく感じているような節がある。これはトランプ大統領が政治をリアリティーショー化した効果が多分に大きい。18年7月のNATO首脳会議でも、トランプ大統領は脱退を示唆してヨーロッパに乗り込んだ。「アメリカはGDPの4%を国防費に投じて、どこよりもNATOに金を使っている。アメリカとの貿易で大儲けしているドイツの国防費は1%にすぎない。これは不公平だ。加盟国が防衛費を増額しなければ、アメリカは脱退も辞さない」と。NATOは米ソ冷戦時代にアメリカ主導で結成された軍事同盟で、アメリカは頼まれて用心棒をしているわけではない。軍事ロビーが強い自国の都合で今もNATOに大枚をはたいているにすぎない。

いつも通りの勉強不足、完全に筋違いの主張なのだが、ヨーロッパ勢は「24年までに国防費のGDP2%達成を揺るぎない責任とする」と応じた。一見、トランプ大統領の剣幕に押し切られたようだが、当事者たちが24年に国のトップにいる保証はどこにもない。しかしトランプ大統領はいたく満足して「NATOは素晴らしい。今は脱退する必要はない」と語っている。米朝首脳会談もそうだったように過激に危機を演出してディールに臨み、チープな結末を「素晴らしい成果」と過剰に強調する。“プロデューサー”トランプが視聴率(支持率)を稼ぐ常套手段なのだ。