中国・海亀派が、ハイテク化の担い手に

1960年代、私がMIT(マサチューセッツ工科大学)で学んでいた同時期、MITには日本人留学生が70人いた。これはアジアの国ではぶっちぎりの数で、中国本土からの留学生はゼロ。台湾系が10人くらいで、韓国からは1人だけだった。当時、国力の全盛期にあったアメリカは超寛容で、私のような外国人にも成績次第で奨学金を出してくれた(しかも返済義務なしで、私の場合は生活費の面倒まで見てくれた)。当時、MIT以外のアメリカの大学にもたくさんの日本人がいたと思う。留学生の多くは企業派遣だったが、そうした人たちが日本に帰ってきて高度成長期の歯車になって活躍したのである。

中国・深セン市の都心部、羅湖区の高層ビル群。(AFLO=写真)

昨今の日本人の海外留学者数は年間約9万人。このうちアメリカに留学するのは約2万人で、90年代後半のピーク時の半分以下まで減っている。対照的に今や世界中で圧倒的に増えているのが中国人留学生だ。中国人の海外留学者数は今や年間60万人を超え、その多くが欧米に集中している。アメリカで学ぶ留学生は約100万人いるが、国別に見ると中国人が3割以上を占めて、2位のインドや3位のサウジアラビアを引き離して断然1位だ(日本は9位)。

注目すべきは年間60万人以上が海外留学する一方で、海外から帰国する留学生が年間48万人もいるということだ。90年代に中国人留学生は国外脱出のために決死の覚悟でアメリカに渡って、14%くらいしか中国には戻らなかった。それが今や48万人の留学生が中国本土に戻ってくるのだ。これは二重の意味で恐ろしい。毎年60万人の中国人留学生が世界に飛び出して48万人が帰ってくるということは、12万人以上の中国人が現地などにとどまるわけだ。彼らは優秀だし、事業意欲も高いから現地で成功する。たくさんの寄付をしてコミュニティーに溶け込み、市民権を得て政治家になる者も出てくる。そうやって世界中で市民レベルでも中国人の政治的影響力が増していく。一方、海外留学から中国に帰ってきた48万人は「海亀派」とか「海帰派」(いずれも読みは「ハイグイ」)と呼ばれて、中国の経済成長、ハイテク化の担い手になっている。年間48万人という「海亀」の圧倒的なボリュームは日本の高度成長期の比ではない。