やがて訪れる未来の「予兆」を発見する人の目のつけ方

受験ならば歴史は暗記で事足りたかもしれませんが、成功するための歴史を学ぶなら、2つの見方を意識しましょう。1つは、そのとき起きた変化に着目し、次の変化を予測するというマクロな見方です。もう1つはミクロ的な見方です。個々の人物に絞り、誰がどんなことをして成功したのか、歴史から共通項を見出す。歴史から導き出される結論は得てして「当たり前」のもので、特に心が躍るものではありませんが、この2つの合わせ技によって「ほぼ確実に成功できる」と私は考えています。

経済評論家 加谷珪一氏

明治維新以降の日本を見ても、成功しているのは時代の変化を読み、いち早く動いた人間です。例えば、三菱財閥を創業し「富国強兵」に向かう日本に武器を売り込んだ岩崎弥太郎。太平洋戦争後の不動産インフレに乗じてボロ儲けした西武グループ創業者の堤康次郎。森ビル創業者の森泰吉郎もインフレを読み、レーヨン相場で儲けたお金を原資に土地を買い占めました。

では、どのように時代の変化を読むのか。ドラッカーの名言に「すでに起こった未来を探せ」とあるように、やがて訪れる未来の「予兆」を見つけるのです。今、人工知能(AI)がビジネスチャンスだと騒がれていますが、それも10年前からずっと言われていたこと。当時は「そんな時代はすぐにはやってこない」という反応が大半でしたが、結果はこの通り。10年前に動いた人は儲けています。しかし今から飛びついても、遅いのです。勝負の分かれ目は「この話、別のところでも聞いたな」という段階で気がつくかどうか。AIも突然大きなニュースになったわけではなく、以前からさまざまな業界で「AIが発達したらこうなる」と話題になっていました。1980年代のバブル経済にしても、85年のプラザ合意のあと日銀が大量に資金を供給したことで「不動産価格の高騰を招く」とバブルを予見する声が少なからずあったのです。多くの人がそれを笑い飛ばしましたが、現実に目の前で不動産が高く売れていきました。そうした小さな予兆を見逃さず、パズルのようにはめ込んでいけば、時代の動きが読めるのです。

時代を読む、というと相場師的な直感をイメージされるかもしれませんが、そこまでの能力は必要ないと私は思っています。オープンになっている情報を丹念に拾っていくだけでも、時代の変化は予見できます。

これは私の経験談です。レノボというパソコンメーカーはもともと中国科学院という国営研究所の超エリート技術者が、国の支援を受けて創業した会社です。すぐに香港市場に上場したものの、当初株価は振るいませんでした。しかし中国市場は巨大ですし、中国が国策として国産パソコンを支援しようとしている。そこで投資をしてみると、あっという間に株価は20倍になりました。私が参考にしたのは、普通に新聞に載っている情報、目の前に転がっている情報だけ。「どこかに特別な情報がある」というのは妄想で、お金儲けには新聞と雑誌を読むだけで事足りるのです。目立たないベタ記事まで含めて、一通り目を通していれば「この話、別のところでも読んだな」とピンとくるときがきます。

そして「ピンとくる」のは歴史を知っていてこそです。情報はいつでも玉石混交ですし、なんの知識もないまま読んでも単なる情報の羅列としか見えません。しかし「歴史の動き方」を知っていれば「かつてこんな状況ではこうなった。今回もこうなるだろう」とシナリオが立てられるはず。歴史を知り、シナリオの引き出しが増えていくほど、ピンとくる機会も増えてくるというわけです。