「来るインフレに備え、米ドルやユーロを買っておくべき」

具体例を出しましょう。私は今、日本のインフレを警戒しています。「デフレの時代に何を言ってるんだ」とおっしゃるかもしれませんが、予兆はいくらでもあります。かつて10個入りだったお菓子が8個入りになるなど「値段は同じで内容量が減った」商品が増えている。日銀による異次元の金融緩和。歴史上これだけ大量にお札を刷ってインフレにならなかったケースはありません。そして空前の人手不足。過去、失業率が2.5%を切ると急激にインフレに振れるというパターンを日本は繰り返しているのですが、現在の失業率がまさに2.5%。インフレの歴史や、経済学に素養のある方なら「これからインフレにならないのはおかしい」と考えるのが自然です。

インフレにもいくつかのシナリオがありますが、戦後70年間のインフレの歴史を学べば、想定されるほとんどのシナリオを網羅できます。戦後間もなくはハイパーインフレにより物価が200倍に高騰しました。そのあと朝鮮戦争特需があり、高度成長期に突入。物価も上がるし給料も上がるというよい時代が70年ごろまで続きました。オイルショックが引き起こしたのは典型的なコストプッシュ型のインフレです。石油価格が高騰し、企業はこのコスト増を吸収するため商品を値上げしましたが、賃金は上がらず、成長は鈍化するという一種のスタグフレーションを招きました。80年代に入ると日銀が大量に資金を供給、内需拡大によりバブルが発生。バブル崩壊とともにデフレに突入しました。

以上のシナリオのうち、これからやってくるのは70年代型のインフレではないかと私は予想します。すなわち物価ばかり上昇して株価は上がらず、景気は低迷、庶民の生活は苦しくなる。このシナリオを踏まえて今後望ましい投資行動を考えるならば、インフレは円安要因になるので米ドルやユーロを買っておくべきでしょう。また日本株は手じまいし、米国、欧州の有料企業の株を購入するのがベター。このように、歴史を踏まえてシナリオを立てると、打ち手はほとんど決まってくるものです。最初にも言いましたが、その多くがごく「当たり前」の選択であり、特に心が躍るものではありません。しかし、そのとき「でも」とか「そうはいっても」とか言わず、実行した人が成功する。要するに「やる」か「やらない」か。究極、成功する人としない人の違いは、そこだけだと思います。

▼マクロ的な見方
歴史上の大きな「変化」とその「原因」をつかむ
(例)
【原因】―関東大震災
【変化】―インフレ
関東大震災で壊滅的な打撃を受けた日本経済。打開するために、国債の大量発行によるマネーの大量供給をしたため、政府債務が膨張。インフレになり、人々の生活は苦しくなった。
▼ミクロ的な見方
変化に乗じて、誰が「どんなこと」をして大儲けをしたか
(例)
【富国強兵に乗じて
軍事輸送で大金を手にした【岩崎弥太郎】
三菱財閥の創始者・岩崎弥太郎は、西南戦争で、政府の要請に応じ、政府軍7万人、弾薬、食糧を船で輸送した。
加谷珪一
経済評論家
東北大学卒業後、日経BP社に記者として入社。投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。『お金は歴史で儲けなさい』『ポスト新産業革命「人口減少」×「AI」が変える経済と仕事の教科書』など著書多数。
(構成=東 雄介 撮影=大沢尚芳)
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