「まあいっか、で誤魔化しましょう」
60代の方に勧めたい教養といったら、「宗教学」です。60代は、多くの方が定年退職という人生の節目を迎える時期。それは、会社員生活を卒業し、本当にやりたかったことに邁進できる楽しい人生の始まりでもあります。それなのに過去に執着し、考えを切り替えられない人も多いのではないでしょうか。
宗教学はそんなときに役立ちます。キリスト教でもいいですが、仏教なら約1500年前に伝来していますから、日本人にはDNAレベルで染み付いています。
私は59歳のときに高野山大学の大学院に通い、仏教や密教を学びました。きっかけは、33年間の精神科で培った精神医学の知識をがん患者とその家族に応用しようと考えた際、自分に確固たる死生観がないことに気づいたからです。学びの中で空海と出会い、「マインドフルネス瞑想」にも通じる「今、ここ」を大切にする考え方を知ったことが、がん患者をカウンセリングする場面でとても役立っています。
がんが発見され泣いている患者さんは「あのとき検診を受けていたら」等々、悔やんでばかりいます。でも過去は変えられません。未来もわからない。心を楽にするには「今、ここ」に集中するしかない。そのために患者さんにいろんな言葉を投げかけますよ。「まあいっか、で誤魔化しましょう」「これまでのことはリセットしましょう」。
60歳以降の人生を元気に過ごそうと思うなら、ぜひ「今、ここ」を学んでほしい。60歳を過ぎるとあちこちガタがきて、将来に不安を感じやすくなります。混沌とした時代でも、過去を悔やまず未来を恐れず、元気に生きていくため「今、ここ」に目を向けるのです。
そのうえで「新しい山」を探してみてください。