本連載ではこれまで3回にわたって中国の最新AI・IT事情を紹介してきた。それぞれのエピソードに共通するのは、ベンチャーにも大手IT企業にも個人にも、みな“起業家魂”があることだろう。自らの考えで行動し、利益を生むためにはリスクを取って投資する。そんな姿が垣間見える。
第1回 中国のAIは“大したことはやってない”のか http://president.jp/articles/-/23863
第2回 中国でシェア自転車が急成長した根本原因 http://president.jp/articles/-/24052
第3回 上海ビジネスマンが昼食で外出しない理由 http://president.jp/articles/-/24662
実際の調査でも、中国の開業率(1年間の起業数を総企業数で割った数)は約20パーセントと高く、日本の5パーセントに対し4倍という結果が出ている(参考:「起業しやすさ」ランク127位と格下・中国で起業家数が日本より約3倍のワケ 政府に危機感 http://www.sankei.com/premium/news/170531/prm1705310005-n1.html)。
統計を取ったわけではないが、筆者の体感としても、確かに日本人よりも起業することに熱心な印象がある。筆者が中国に滞在していたときの仲間も、その7割ほどは起業しているのだ。
中国人はなぜ、日本人より“起業家魂”があるのだろうか? 前回は、シェアリングビジネスを支える都市部で働く地方出身の労働者を紹介したが、今回は大学を卒業した中間・富裕層の中国人に焦点を当てて考えてみたい。
「ラオバン」か「ダーゴン」か
中国の旧友らの会話を聞くと、「ラオバン(老板=社長)」と「ダーゴン(打工=雇われ人)」という言葉が頻繁に出てくることに気づく。
久々に会ったときに交わすあいさつ、「今は何をしているの?」と聞くと、日本だと「○○の会社に勤めている」「営業/経理/人事をしている」など、会社名や職種を言う人が多いだろう。
ところが、中国ではこの問いに対して「まだダーゴン(打工=雇われ人)だ」と答える人が少なくない。中国人、特に南部の若い世代は「自分で会社を持って経営をする」か「他人の下で働く」かに二分される職業観を持っているのだ。そして、「まだダーゴンだ」という言葉に見られるように、雇われ人ではなく老板(ラオバン=社長)になることがよしとされ、仕事をする上での目標になっている。
筆者の駐在時の同僚も、その多くが30代で自分の事業を起こしている。技術が得意な者は製品会社をつくり、そうでない者はサービスの会社をつくり、営業が得意な者は商社をつくる。工場の労働者から仕事を始め、Eコマースで特産品を販売して大成功し、大金持ちになったという話が知人も含めゴロゴロ転がっている。中国で大学を卒業した中間・富裕層の人たちは、そんな状況が当たり前の世界に住んでいるのだ。