「大したことはやっていない」
中国では今、AI(人工知能)が盛り上がっている。実際に現地を視察すると、日本での報道以上の迫力があって驚く。
AIは、この数年で急速に発展した。背景には、機械学習のアルゴリズムが工夫され、集積回路(IC)の処理速度が格段に上がったことがある。現在は基本的な画像処理・音声処理・言語処理が可能になったレベルで、応用範囲がかたまるのはこれからだ。中国では、そんなAIをビジネスに取り入れるための実験が盛んに行われている。どれも日本においてはまだ実行されていないか、始まったばかりのことだ。
技術的には驚くべきことではなく、使っている要素技術自体は全て日本にもあるものばかりだ。むしろ私が驚いたのは、みな口をそろえて「大したことはやっていない」と言ったことだった。
私は今年5月に、AIを用いた技術を開発するベンチャーを起こし、その関係で中国を訪れる機会が増えている。その前にはハイテク企業の中国法人を2002年に立ち上げており、日本製品を現地の営業マンを雇って販売していた。
この半年、当時の社員の多くに会い、今や自ら事業を立ち上げ、世界最先端のAI技術を取り入れようと躍起になっているのを目の当たりにして、私のこれまでの中国観は大きく変わってしまった。中国は急速に先進国に追いついたが、今、その勢いのまま、ITの技術でスマホの電子決済など一部の分野で先進国を追い抜き、さらにAIで発展を加速させていることに気づいたのだ。
私は、なぜ中国でここ数年ITやAIの急速に発展しているのか、何がそれを可能にしているのかについて、日本の読者に知ってもらいたいと思っている。私自身はこうした変化に強い危機感をおぼえ、それが今のビジネスの動機にもなっている。連載第1回となる今回は、中国で行われているAIを用いた実験を紹介し、背景にある中国人のビジネスマインドを考えていきたい。