中国人の「やってみよう」マインド

中国ではなぜ、AIという新しい技術の実験を迅速に行えるのだろうか?

背景にはまず、中国人の「とりあえずやってみよう」というマインドがある。製品・サービスがいったん市場に出回れば、その良しあしを判断するのはユーザーや消費者などの大勢の人だ。なのでその良しあしを、一人の経営者やビジネスマンが判断するのは合理的ではないと考える。当たるか外れるかを一人で考えてから世に出すよりも、まずは市場に出して反応を見ようとするのだ。

スピードがすべての世界では、じっくり考えている間に誰かが先んじてしまったら失敗すらできない。やってみてダメだったとしてもやらないよりは良いので、失敗をとやかく言われることは少ないのである。

AIはまだまだ、「やってみないとわからない」テクノロジーだ。AIの機械学習と言うように、その発展には“学習”が欠かせない。まずは試行を重ねてデータを集め、失敗から改善を重ねていくというサイクルが機械にも必要だ。それが「とりあえずやってみよう」という中国人の価値観と合っている。

今まで人間が「なんとなく」という感覚でやっていたものを、自動化させたい……そう企業が考えたとしても、日本では「やるなら100%完璧でないとだめ」という意識があるので、特に製造業においてAIは使えないと思われている。一方中国では、「もともとできていなかったのだから、95%でも、たとえ70%でもやってみよう」という感覚だ。

中国は改革開放を始めて30年、急速な経済発展はこの10年で起こったので、いくつかの国営企業を除けば、ほとんどがベンチャー企業だ。日本に例えて言うならソフトバンクのような会社が国中にたくさんあるイメージであり、勢いのある彼らがまず「やってみよう」としている。

私はこの「やってみて失敗から学ぶ」というのは、“カイゼン”の得意な日本人の専売特許だと思っていた。しかし現地に赴き、身近な人たちが目を輝かせて突っ走る姿を見て、AI時代には逆に、中国が日本より圧倒的に先を進むのではないかと焦りを禁じ得ない。

中国人にとっての創造は、技術ではなくビジネスモデル

実験をすぐさま可能にする「やってみよう」という価値観に加え、中国の急速なAI発展を支えているのが、圧倒的なデータ量だ。そもそもの人口が多いだけでなく、必要だと思えば惜しげも無く、企業が自社データを他社に提供しているためだ。

深センで行われたAIセミナーのようす(筆者撮影)

日本では、特に製造業においては、自社データの提供を躊躇することが多い。それは技術が、企業にとっての創造性・独自性の結晶だと捉えられているからだ。だが中国では、企業の創造性=ビジネスモデルである。他の企業がやっていない新しいことをいち早くやり遂げ、利益を上げることこそが企業の創造性だと考えるのだ。

まずビジネスそのものに目を向け、どうすれば儲かるのか、そのためにどんなビジネスモデルがベストなのかを考え抜く。その上で必要な技術、特にITやAIを活用して事業を展開する。ゆえにビジネスの“手段”である技術を、惜しげも無く互いにシェアするのだろう。

人材面では、日本でのITは技術職というイメージだが、中国ではビジネスの手段であり、理系・文系という区別なく、キャリアのチャンスだと思えば誰もが積極的に学ぶ。まして会社を経営して成功したいと思う若者にとっては、ITだけでなくAIも成功への鍵だ。結果、IT・AI分野に豊富な人材が生まれ、競争が産業を発展させる。