AIで安価に洋服を自動検品し、漁場にドローンを飛ばす
中国にいる友人の一人に、アパレルの繊維工場で用いる機械を製造・販売しているメーカーの社長がいる。彼は現在、AIのディープラーニングで洋服の検品の実験を行っている。
「日本は進んでいるけど、中国はまだまだなんだよね。できているのはこのくらい」と前置きをして、彼はディープラーニングが検品している写真を見せてくれた。洋服のシミやほつれの写真を他の企業から提供してもらい、AIに学習させる。その後、実際に検品する洋服をカメラで撮り、あらかじめストックされていた不良品のデータと照らし合わせるのだ。
日本の工場でも、人間が目視で検品しているところは多い。または、高価なチェック用の画像処理を入れて、機械で検品を行うのが一般的だ。しかしこの方法なら、Webカメラとパソコン、無料のAIソフトを組み合わせるだけで検品作業を自動化できる。これまでに比べイニシャルコストが格安な上、機械の設定時間も大幅に短縮されるのだ。
また、他の友人が経営する会社(ジャンポステクノロジー)では、漁場にAIを活用する実験を、ドローンと画像処理の機器で支援している。上空から漁場の写真を撮り、AIが解析する。こうすることで、どの辺りに魚が固まっているかを把握したり、魚の動きなどの様子を分析したりして、餌の最適な提供方法を考えるという。コストを削減し、より質の高い魚を養殖しようという試みで、これが実現すれば魚の値段がぐっと安くなると言われている。
北京から飛行機で数時間という辺鄙な場所で、稼働中の巨大養殖場にいきなりドローンを飛ばし、魚影を撮影、画像処理する実験を始めたというから驚きだ。日本で同様の取り組みを探すと、2017年6月に、民学連携でAIを用いた漁業システムをこれから開発すると発表があったばかりである。
人の横を無人車が走り去る
杭州の大学の構内では、学生が歩いている横を、平気で“無人”車が走っている。ディープラーニングを行っているわけではないため、正確にはAIとは言えないのだが、レーザーを照射して周辺の対象物を検出・測距するという、自動運転でも使われる技術を用いている。
この自動運転車を走らせているのは、大手ECコマース会社・京東。日本でいうAmazonのような企業で、注文された商品を無人車で届けようという実験だ。中国ではECコマースが急速に普及しており、中国メディアの「電商報」によると、市場規模は420兆円で世界の4割を占めるほどだという。
日本でも、2017年9月に無人運転バスの実験が始まるなど、自動運転の実証実験はいくつか行われている。だが、国土交通省など役所が主導であり、ビジネスとして展開されるには時間がかかるだろう。「公道を走らないのだから大丈夫」と言って、民間企業がいきなり大学構内で自動運転車を走らせて実験を始めるという事態は、日本では考えにくい。
洋服の検品も、漁場でのドローンも、無人車の走行も、技術的には高度なものではない。ディープラーニングのソフト自体は今や、無料で使うことができる。写真データを収集する場合はカメラが必要だが、それも安価だ。
だから中国人の友人たちは私に、「大したことはしていない、その気になれば誰にでもできることだ」と語ったのだ。しかし、AIの実験をするには技術の他に、実験をするための許可や手続き、そしてAI学習のための、大量のデータ提供が必要になってくる。
何よりも、AIを実際にビジネスで使えるようにするには、実際の現場で検証すること、そこでの成功失敗を糧にさらなる改良を迅速に行うことが肝要だ。こういった実験に必要な土壌は、まだ日本では整っておらず、だから実験が進まない。そこが今回、中国でのAI最前線を知って驚いたポイントだった。