田舎暮らしを成功させるには、どうすればいいのか。『現代アートを続けていたら、いつのまにかマタギの嫁になっていた』(山と渓谷社)を書いた大滝ジュンコさんは、9年前に新潟県にある人口37人の集落へ移り住んだ。大滝さんは「地方移住に成功する人と失敗する人には明確な違いがある」という。(後編/全2回)
あいさつ代わりに村人から「子どもはまだか?」
(前編から続く)
――田舎暮らしに憧れて地方に移住したものの、なじめない人も多いなか、大滝さんが人口37人の山熊田に定着できた理由はなんでしょうか。
それは、たぶん私がいい加減だからですね。
あとは、いろいろな出来事の背景を調べたり、考えたりするのが、好きな性格だったというのも大きいかもしれません。
たとえば、移住の1年後、私はマタギの頭領と結婚したのですが、結婚当初から村を歩いているとあいさつ代わりに「子どもはまだか?」「孕んだか?」と声をかけられました。
最初はびっくりしましたが、背景を考えて、自分なりに納得しました。かつては山熊田のような山村に新たな人が暮らしはじめる場合、結婚以外に有り得なかったわけです。結婚以外の移住者がいないから、次は子ども、という発想になってしまう。それはある意味で仕方のないことかもしれないな、と。
田舎に定住する上でもっとも大切なこと
しかも山熊田の住民はほとんどが高齢者で、みんな親戚なんですよ。いま社会で問題になるようなモラハラなどの価値観にも疎い。何よりも、村全体がアットホーム。
もっと言えば、村の37人が1つの家族のような関係性なんです。関係性が近いから、互いに気を遣わない。そうした事情が納得できれば、村への理解が深まります。
またマタギたちは、熊狩りで互いの命を預け合うような信頼で結ばれています。だから村全体の結束も強くなる。そんな背景を知れば、村人同士の関係にも敬意が持てる。
それに、田舎暮らし、地方移住と一括りに言っても集落ごとに特色が異なります。こう言っては身も蓋もないのですが、定住する上でもっとも大切なのが、村や住民との相性なのではないでしょうか。
悪気がないのは分かったとしても、あいさつ代わりに「子どもはまだか?」「孕んだか?」と言われるのが、耐えられない人は多いでしょうから。