京都の過疎の村の「道の駅」が大繁盛している理由
日本屈指の観光地「京都」。だが、これは主に府庁所在地の京都市のことを指す。同じ京都府には唯一の村があることをご存じだろうか。人口2434人の南山城村(2024年2月29日現在)。日本創成会議が発表した消滅可能性都市17位(2014年)で過疎化の一途をたどっている。
ところが、中山間地域にある小さな村が今、大きな注目を浴び、各地から車に乗ってわざわざ訪れる人が絶えない。人々の目的地は「道の駅 お茶の京都 みなみやましろ村」。この春で開業8年目を迎える。業績はここ数年右肩上がりで、コロナ禍にもかかわらず2023年度の年商はついに6億円の大台を突破する。
なぜ、この消滅危機の過疎村で“偉業”を達成できたのか。それは“ド素人”経営者の存在が大きかった。村名をそのまま会社名にした南山城の社長、森本健次さん(57)。前職は、南山城村役場の職員。公務員歴30年以上、経営はおろか民間企業で働いたこともなかった。
「地元にあるものをとことん活かす」村づくり
役場では税務課、ごみ処理施設や小学校建設などを担当した。入職して約20年が経った2010年、村長特命の「魅力あるむらづくり推進室」を任される。業務内容は、村の一大プロジェクト「道の駅整備」と移住促進、いわゆる地方創生である。
プロジェクトの重点項目のひとつに「若者が就労できる農業振興」があった。南山城村の特産品はお茶だが、農家の生業があってこそ成り立つ。若手農家を勇気づける取り組みをつくる必要があった。
「若手の茶農家を集めて意見交換を行いました。その場で『茶の売り上げアップを図るなら、(販売店などに卸すのではなく、直接、客への)小売りという方法がある、お茶を生産する以外の部分を誰かが担えばいいのでは?』と提案したんです」
しかし、すぐに厳しく突っ込まれてしまう。
「役場の人間に提案されてもなにも響けへん。まずは個人として信頼関係を築いてからやろ」
別の場では「お茶は売れない、売れるもんなら売ってみろ」とも言われた。
正論に、ぐうの音も出なかった。だが、森本さんはあきらめない。若手茶農家で構成する任意団体・南山城村茶業青年団に入団。役場の仕事を終えると懇親会などに顔を出した。酒を酌み交わし、茶農家たちの茶業への熱い思いにふれ、心の交流が芽生え始めた。
しばらくして、宇治茶で紅茶をつくる「京都南山城紅茶プロジェクト」が立ち上がる。
2011年、森本さんは東京での「地域活性化勉強会」に参加。そこで知り合った紅茶専門店代表から「宇治茶の紅茶をつくってみては?」と提案を受けた。茶農家の協力のもと、生葉10kgを送り紅茶を試作してもらう。できあがった紅茶の、すっきりとしたさわやかな味わいに驚いた。地元茶のポテンシャルの高さを確認できた。2012年2月、村の定例会見で披露。その後日の地方紙夕刊の一面に掲載され、ニュース番組にも取り上げられた。
大きな反響を受け、紅茶製造の拠点づくりがスタート。しかし、紅茶製造にかかる設備などの初期費用は助成金では足りず、発起人として森本さんが私費を投じた。その額140万円超。袋詰め作業、販売サイト制作、配送など、役場の業務時間外に「つくること」以外の作業を担った。