地方議会における女性議員は増加傾向にあるものの、政令指定都市の市議会で21%まで増えたのに対し、町村議会では12%と伸び悩んでいる。そんな中、4年前に湯河原町議会にトップで初当選した土屋由希子議員は、「秘密会」で税金滞納者リストが配布されていたことを問題化して懲戒処分を受け、激しいバッシングに遭った。しかし、辞職後、2024年3月の町議選で再びトップ当選した。土屋議員に取材した柴田優呼さんは「忖度せず質問する女性議員に圧力をかけるような古い体質を変えないと、地方議会の未来はない」という――。

のどかな「温泉とみかんの町」の議会で慣習化していたこと

日本の民主主義は「お任せ民主主義」と言われる。特に地方選挙では投票率が低く、無投票当選も珍しくない。選挙が終わったら、後は当選した政治家にお任せだ。

でも、そうした「お任せ民主主義」を放置した結果、一体どんな事態になっているのだろうか。これは、高齢化率が神奈川県でトップクラスの40%超えで、人口2万3000人の「温泉とみかんの町」、湯河原町で起きていたことだ。

湯河原町では長年、驚くようなことが慣例的に行われていた。

1、税金滞納者約2000人のリストが、秘密に10年間も町議員に配布され、回収もされていなかった。
2、条例で定められた町職員の時間外手当がずっと支払われず、20年以上もサービス残業が続いていた。

「湯河原町職員の時間外手当、3年間で8200万円が未払い」神奈川新聞、2023年9月16日

特に、1の滞納者リストは、単なる名前と住所の羅列ではない。該当する個人・法人の住民税や固定資産税、上下水道料金、公営住宅家賃、介護保険料に至るまで、個人情報がこと細かくExcelの表にしてまとめられていた。紙表紙のファイルで綴じられたA3サイズの冊子になっていて、厚さは2、3センチもあった。この冊子が議員に配布された後の行方は、不明。具体的にどう利用されていたかも謎だ。

【図表】地方議会における女性議員の割合の推移
出典=内閣府男女共同参画局『男女共同参画白書 令和4年版』より

新人議員が税金滞納者リストの配布に疑問を呈したら…

これは問題ではないか、と指摘したのが、東京から約20年ぶりにUターンした新人議員の土屋由希子氏だ。2020年3月に37歳で初当選。その年の9月の町議会で、個人情報の保護や地方税法の守秘義務の観点からどうなのか、問題提起をした。おかげで町民はやっと、町議会と町が長年、内緒でしていたことを知ることになった。

ところがその後、さらに驚くべき展開となった。土屋氏は秘密を漏らしたかどで、懲罰に処されたのだ。滞納者リストは町税についての特別委員会で配られていたが、その時だけ非公開の秘密会に切り替えられていた。秘密会の議事内容を漏らすのは懲罰に値する、というわけだ。議会での陳謝を求められ、土屋氏が拒否すると、今度は出席停止処分になった。

その上、土屋氏の懲戒処分が、議会広報誌に4ページにわたって大きく掲載され、新聞の折り込みや公共施設や大型マンションへの配架を通じて、町中に伝えられた。滞納者リスト漏洩ろうえいの話は一切触れられることなく、土屋氏がルールを破ったことだけが特筆された。土屋氏の署名入りの陳謝文も、本人の同意なく、議会側が一方的に作成して一緒に掲載された。