これまで以上に中国の影響を受けるなか、日本はどうなるのか

これまで4回にわたり、筆者が経験した昨今の中国のAI・IT事情、ビジネス事情について書いてきた。読んでくださった方は、中国はものすごい勢いで変化・成長していること、21世紀において中国が間違いなく世界の大国になることがわかっていただけたのではないかと思う。

上海の夜景。中国の大都市はものすごい勢いで成長しており、日本人の多くが思うよりも豊かになっている。

しかし、いまだに私たち日本人の中国(人)像は単一的だ。モノマネ製品が多く、品質では日本に追いつけない。中国は日本の高度成長期と同じ段階であり、バブル経済はもうすぐ崩壊する。一方で5000年の歴史を持つ雄大な国であり、親切で人情味あふれる人がいる――どれもこれも、間違った見方ではない。

でも、こうした既存のイメージのままで中国を捉えていては、ITやAIを駆使し、一方で21世紀の新しいシルクロードを築く、そういう世界の先頭に踊り出ようとしている今の中国の姿は見えてこない。アメリカの大統領が子供たちに中国語を学ばせているように、中国の大国化は世界の常識だ。そんな今日においてさえも、隣国のことを私たち日本人がほとんど知らないことに、正直、危機感を覚える。

もちろん、急成長する中国をまねすべきだと言いたいわけではない。この連載で述べてきたように、中国のビジネスが急速に進む背景には、中国ならではの文化や価値観、社会構造が必ずあり、格差や就職難、優良企業の少なさなど、時にそれはネガティブな理由である。

一方、中国には、ビジネスで成功を収めたのちになお、日本から学びたいという人がいる。日本がしてきた成功や失敗は、これから経済的・社会的な成熟を迎える中国にとっては貴重なものが多い。生活を豊かにするための創造力、確実に一歩一歩進めていく仕事のやり方、経済価値だけにとどまらない文化や価値観の多様性。経済成長の最中では得られないものを、日本は“失われた30年”で培ってきた。海外に長く住んできた私にとって、日本はいつも素晴らしい国だった。失われた30年で日本は物価を上げることなく、格段に質的発展を遂げたと感じている。

先入観にとらわれず、今まで以上に隣国として影響を及ぼす中国を多面的に捉え、同時に、日本が培ってきたものを見つめ直す。こうすることではじめて、日本は自国の良さを、中国をはじめ世界にも伝えることができるのではないだろうか。

菅原伸昭(すがはら・のぶあき)
iROHA 共同代表取締役及びオイラーインターナショナル共同代表。1969年生まれ。91年京都大学卒業、日商岩井入社。96年 中国語学短期留学の後、キーエンス入社、1999年台湾現法設立、2001年 中国現法設立、責任者として中国事業拡大に貢献。その後アメリカ法人責任者を経て帰国後、2014年よりTHK 執行役員 事業戦略責任者。2017年より産業用のAIを開発するベンチャー企業を設立、現在に至る。(連絡先:nobu.sugahara@iroha2017.com)
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