アイビーリーガーのエリート不動産王

2016年の大統領選挙から今日まで、常にメディアを騒がせ続けたドナルド・トランプ大統領。日本でのイメージはお世辞にもいいとはいえないが、彼は生粋のエリートである。米国の名門大学群「アイビーリーグ」の8校のうちのひとつ、ペンシルベニア大学ウォートン・スクールを卒業し、ホテル、カジノ、ゴルフコースなどさまざまな施設を建てて「アメリカの不動産王」とも呼ばれている。航空業界や大学経営まで他業種にも進出していた。選挙の運動費の多額出費が最近あったにもかかわらず、保有資産は31億ドル(3276億円)ともいわれている。

ドナルド・トランプ氏(時事通信フォト=写真)

さて、そんなトランプの独特のキャラクターを演出するコミュニケーション戦略とはどのようなものか。ある人物の特徴を掴むには他の事例と対比してみるとわかりやすい。まずは直近の2人の大統領のスタイルと比べてみよう。

ジョージ・W・ブッシュ元米大統領は「気のいい親父型」タイプだ。米国のメディアは基本的に民主党支持であり、反共和党であるためにブッシュもトランプと同様に激しいメディアからの中傷にさらされた。その結果として、当時の米国メディアによって、知的な会話ができない、語彙が足りない、知識が不十分などのいかにも都市部インテリ層が重箱の隅を楊枝でほじくって批判しているような文脈でブッシュの印象が日本にも伝えられてきた。

ただし、実際にブッシュに会った人らによって、気さくな人柄と雑談の達人としての魅力について触れられることも多い。ブッシュはメディアを通じてではなく、面と向かった対人コミュニケーションが得意な人物だったといえる。

一方、バラク・オバマ前大統領は演説の名手として国内外のメディアで非常に高い評価を得ている。オバマのコミュニケーションスタイルは「カメレオン型」だ。ケニア人の父と米国人の母の下に生まれたこと、その後の成長過程において多くの矛盾を抱えながら育ったことから、オバマにはさまざまな人々の目線に立ってスピーチを巧みに行う才覚があった。

実際、オバマが世に頭角を明確に現した瞬間は04年のジョン・ケリー氏が民主党大統領候補者になる指名演説の際の基調講演であり、その演説は党派を超えた多くの有権者を魅了した。オバマはあらゆるタイプの米国民に合わせて言葉のニュアンスをコントロールでき、聴衆を一時的に気持ちよくさせる術に長けていたといえる。