自らの土俵へ相手を上がらせる

そのため、トランプの前ではあらゆる議員やコメンテーターの存在感が霞むことになり、結果として誰もがトランプのことを口にするようになるのだ。よい噂・悪い噂も含めて話題になり続けることを重視するトランプのスタイルは芸能人スタイルの真骨頂である。

その観点から北朝鮮の金正恩氏はトランプにとっては格好の敵役であったことは間違いない。17年から強烈な言葉で罵り合いを続けた両者は、世界中のメディアで常に話題の的であった。トランプにとっては金正恩が尊大な言い回しや過剰な侮蔑の言葉を用いる悪役タレントに見えたに違いない。実際、金正恩が自ら板門店の軍事境界線を渡るというパフォーマンスを披露した姿など、彼のイメチェンのための話題づくりと見せ方の巧さはなかなかのものだ。

金正恩が態度を変えると、トランプも「賢明で慎重な選択をした」と褒め称え始めている。トランプは相手が思い通りの行動をすると間髪を入れず褒めることで、相手の言動を衆人環視の下で固定化しようと努める傾向がある。これは欧米人が講演や、記者会見の質疑応答などで我が意を得た質問が出ると「良い質問だ」と褒めて議論を自らの土俵に上がらせる典型的なやり方だ。トランプと金正恩は各々欧米のメディアを通じて自分たちがどのように聴衆の目に映るのかを気にしながら行動するという意味では気脈が通じるところがあるかもしれない。

いずれにせよ、トランプが大統領として在任し続ける限り、日本人であっても同氏の顔や話題に1度も触れずに1週間を過ごすことは難しいだろう。トランプの天才的な話題創造力には脱帽するばかりである。

ドナルド・トランプ(Donald J.Trump)
アメリカ合衆国大統領
第45代アメリカ合衆国大統領。1946年、米国ニューヨーク州の不動産会社を経営する家庭に生まれた。ペンシルベニア大学ウォートン・スクール卒業(経済学)。71年に父親から社長の座を譲られた。大統領になるまで政治キャリアはなかった。
(写真=時事通信フォト、AFLO)
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