トランプ大統領は何を考えているのか。国際政治アナリストの渡瀬裕哉さんは「有識者の中にはトランプ氏の行動を『場当たり的』と評する声もあるが、それは間違っている。色眼鏡を捨てて彼の行動を見直すことで、同政権の真意を知ることができる」という――。
2019年6月、大阪で首脳会談に臨むトランプ米大統領(左)と中国の習近平国家主席
写真提供=ロイター/共同通信社
2019年6月、大阪で首脳会談に臨むトランプ米大統領(左)と中国の習近平国家主席

トランプ氏の行動の裏に「首尾一貫した戦略」

トランプ大統領が「ピースメーカー」として活躍している。

第二次トランプ政権下で、トランプ大統領が仲介に乗り出した紛争案件は、ロシア・ウクライナ戦争だけではない。アルメニア・アゼルバイジャン間、タイ・カンボジア間、ルワンダ・コンゴ民主共和国間など、トランプ大統領が和平仲介に乗り出して成功した例が積み重なっている。表面上はトランプ大統領個人がノーベル平和賞を欲しがっている側面が強調され過ぎているため、有識者の中にはトランプ大統領の言動を馬鹿にする声もあるが、それらは実に浅薄な分析だと言える。

なぜなら、トランプ大統領の行動は首尾一貫した戦略の下で行われているからだ。第二次トランプ政権の主要な戦略目標は「中国」である。現在、米国の覇権を脅かす可能性がある存在は、中国以外には存在しない。もちろん中国自体は経済的な苦境に陥っており、その将来展望が明るいわけではない。したがって、米国は中国を中長期的に抑え込んでゆっくりと料理すれば勝利できると見なしている。筆者が面談した米国の保守系シンクタンクの人々も同様の見解であった。

関税交渉の「真の狙い」とは

米国は国際的な公共財としてリベラルな国際秩序を守るための軍事力を提供してきた。そして、世界経済を支える消費国、そして基軸通貨国として米ドルを供給してきた。その結果として、米国は過剰な負担を背負い、欧州、中東、東アジアの3正面で敵に対峙するだけの軍事力を維持することが困難になった。それどころか、自国内の製造業を失うことで、軍事力を維持するだけのサプライチェーンを潜在的な敵国(中国など)に依存する状況に陥ってしまった。トランプ大統領はこの状況を是正して、中国と対峙するための体制を整備する取り組みを進めている。

トランプ大統領がロシア・ウクライナ戦争の調停に乗り出すことは既定路線だ。そして、ロシアに対峙して軍事力を示すことは、事前にトランプ系シンクタンクであるAFPIが昨年示した論稿の中で示唆されていたことだ。では、なぜ半年間も平和調停に時間をかけてきたのか。それは欧州に地域的な防衛責任をしっかり持たせることを狙ったからであろう。

第二次トランプ政権の特徴は関税交渉を貿易問題以外の問題解決に用いることだ。トランプ大統領はNATO諸国が自前で十分な軍事費増加とウクライナに対する一定のコミットメントを行うことを約束するまで、EUとの関税交渉を妥結しなかった。つまり、EUが対ロシアで本格的に重い腰を上げるのに要した時間が直近の半年間であったと見るべきだ。EUの軍事力拡大によって、米国の対ロ負担は大幅に軽減されることになる。(さらにEUは巨額投資を米国に行うことによって米欧の軍事的な一体性は強まることになる)