※本稿は、髙橋洋一『60歳からの知っておくべき地政学』(扶桑社新書)の一部を再編集したものです。
日ロが取り合う北方領土の地政学的意味
日本にとって、他国からの脅威に晒されるリスクが高い要因の一つが領土問題だ。現在、日本には中国との尖閣諸島、韓国との竹島、ロシアとの北方領土という三つの領土問題が存在する。まずはロシアとの間で抱える北方領土問題を解説しよう。
北方領土は択捉島、国後島、色丹島、歯舞群島の島々から構成され、日ロ両国にとって地政学的に重要な意味がある。
第2次世界大戦末期の1945年8月9日、ソ連が当時まだ有効であった日ソ中立条約に違反して対日参戦し、日本がポツダム宣言を受諾した後、同年8月28日から9月5日までの間に北方四島すべてを占領した。
ソ連がすでに崩壊したいまでもロシア政府は北方四島を「ロシアの領土だ」と主張し、日本政府は「日本の領土なので日本に返還されるべき」と主張している。
世界的な終戦日は「9月2日」
この問題の解決がいまもなお難航している背景には、「終戦の日」に対する欧米やロシアと日本の認識の違いがある。「終戦の日=8月15日」ということに、多くの日本人は疑問を持たないだろう。しかし、世界では必ずしもそうではない。
筆者には苦い経験がある。米国で国際関係論を学んでいた時、「第2次世界大戦がいつ終わったのか」という議論があった。
もちろん、筆者は「8月15日」と答えたが、他国の人々は「9月2日」と主張した。9月2日といえば、東京湾に停泊していた戦艦ミズーリの艦上で日本政府がポツダム宣言に基づく降伏文書に署名した日だ。その場では、筆者の意見に同調する者はいなかった。
さらに衝撃的だったのは、ロシア人が「ソ連が北方四島に侵攻したのは9月2日以前だから問題ない」と正当化したことだ。筆者は「それは日ソ中立条約に違反している」と反論したが、誰も支持してくれなかった。
ソ連は枢軸国(日本、ドイツ、イタリアなど)と敵対した連合国の一員であり、連合国は勝者だ。勝者の論理に反対する者はいない。戦争中のどんな不法行為も、実際に占領した側の主張がまかり通るのが世界の現実だ。