地下資源も漁業資源も豊富な北方領土
歴史を振り返ると、ロシアが関わってきた戦争は、いずれも南方への進出を目指す野心が根底にあることがわかる。
北極海に面したロシアでは豊かな農業が難しく、冬には港が凍結して使えなくなってしまう。そのため不凍港と肥沃な土地を求め、南方への野心を燃やし続けた。ここでいう南方とは、黒海や中東、朝鮮半島の方向を指す。地図上ではインド洋への進出も考えられるが、実際には世界最高峰のヒマラヤ山脈によって隔てられており進出は容易ではない。
北方領土は石油や天然ガスといった地下資源が豊富で、希少金属も埋蔵されている可能性が指摘されている。さらに世界3大漁場の一つに数えられるほど、タラ、カレイ、カニといった日本ではおなじみの漁業資源が多く獲れ、サケやマスの産卵海域としても重要だ。
アラスカを売った後悔を引きずっている?
また、ロシアは過去に領土で手痛い経験もしている。1867年、財政難に陥っていたため、米国にアラスカを720万ドルという破格の安値で売却し、のちに後悔した。
当時は米国もアラスカそのものに大きな価値を見いだしていたわけではなかったが、米大陸を掌握するための土地として「購入して損はない」と考えたのだろう。
しかし、購入後にアラスカで金鉱が発見され、その後は石油や天然ガスなどの地下資源も見つかった。さらにその後、冷戦時代に突入すると、アラスカは米国の対ソ戦略で重要な役割を果たした。もしカナダの西端にソ連の領土があったとすれば、ソ連はもっと有利に戦略を立てられた可能性もあった。安価で米国に売却してしまったアラスカの価値は、地政学的に見れば多方面にわたる。ロシアは同じ失敗を恐れているのだろう。
そう考えると、北方領土の返還は当面見通しが立たない状況だが、一方でウクライナ戦争が長引けば、ロシアが疲弊し、ソ連のように体制崩壊する可能性がある。その場合、モスクワから遠く離れた北方領土に対する関心が薄れ、手放すことも考えられる。このタイミングが、日本が北方領土を奪還するチャンスとなるかもしれない。
ただしウクライナ情勢次第では、ロシアが日本にも強い敵意を向けてくる恐れもある。この点についても警戒が必要だ。