フェイスブックで「いいね」を押しているのは、本当の顧客なのだろうか。消費財大手のP&Gは、2016年の時点で「ターゲット広告」の重点利用から手を引いている。小売フューチャリストのダグ・スティーブンスは「広告媒体としてのSNS、ひいては広告そのものを根本的に見直す時期にきている」と指摘する――。

※本稿は、ダグ・スティーブンス・著、斎藤栄一郎・訳『小売再生 リアル店舗はメディアになる』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

FB上の「ファン」数が“水増し”されて見えるカラクリ

大手の小売業者やブランドがソーシャルマーケティングにかける意気込みは結構なのだが、計算上の明らかな不備を見逃しているようだ。桁外れの記録やユーザー数にはビジネス系のメディアが思わず飛びつくものだが、事はそう単純ではない。潜在的な投資効果がどの程度あるのか本当に理解するには、いくつか注意しておくべき「ただし書き」がある。ところが、マーケティング担当者のなかで、それを知っている人や、知っていても積極的に認めようとする人はまずいないようだ。それが原因で問題が発生していることに、メルボルン・ビジネススクール助教授のマーク・リットソンも怒り心頭だ。

ダグ・スティーブンス(Doug Stephens)氏。

リットソンの見事なプレゼンテーションがユーチューブで公開されているのでぜひご覧いただきたいのだが、そのなかでリットソンは、うわべだけ取り繕っていることが多いソーシャルメディアマーケティング関連のデータを詳しく吟味している。

典型的な例を挙げよう。リットソンが着目したのは、オーストラリアの小売業者ウールワースが取り組んでいるソーシャルメディア活用のマーケティング活動だ。同社はブランドとしてフェイスブック上で72万1000の「いいね!」を集めていて、一見すると、立派な数字のように思える。だが、ここで実態をもう少し詳しく掘り下げておく必要があるとリットソンは指摘する。

フェイスブック上で72万1000ものファンを集めたというが、これは、ウールワースに「いいね!」を押したことのあるフェイスブックユーザーの数である。現時点で同ブランドを使っているユーザー数でも、同ブランドに熱を上げているユーザー数でもないのだ。リットソンが言うように、任意の週にフェイスブック上でウールワースに関心を示した「現役ファン」の数を見ると、わずか8500人にとどまる。あの大風呂敷を広げた数字のほんの1.1%にすぎないのだ。