相手の好意はありがたく受け入れる

相手が謝罪を受け入れてくれて、励ましと理解の言葉をかけてくれたときは、素直に受け入れましょう。「そんな、滅相もない!」と言い続けていると、許すものも許せなくなってきます。ちなみに「滅相」とは、仏教で存在するすべてのものが滅びて過去に入ること。そのくらい、あってはならないこと、という意味です。

ですが、「ありがとうございます!」では安易なイメージをもたれるかもしれません。そういうときもやはり改まった言葉を使いましょう。

「恐れ入ります」
「恐悦至極にございます」

「恐れ入ります」は、相手を恐れ(畏れ=かしこまる)つつ、お言葉を受け入れますという意味。

「恐悦至極」はこの上なくうれしいことを表す言葉。「恐悦」はつつしんで喜ぶ、「至極」はこの上ないこと。ただしこの言葉は最上級の表現なので、乱用は控えましょう。

相手の優しさをすぐに受け入れるのは甘い考えだという人もいるかもしれませんが、そうとも限りません。「甘える」というのは欧米では「依存」と同義に思われがちですが、日本では上手に甘えられる人ほど人間関係が円滑にいくということがあります。

たとえば、訪問先でお茶とお菓子を出されたとします。そこで「いえいえ、いただけません」と固辞するのは無粋です。相手が好意でしてくれたことだったら、「それではお言葉に甘えて」といただき、「おいしいですね、どこのお店ですか?」くらいの雑談力を発揮したいものです。

あやまるときは、反省と謝罪の言葉のあとで、今後の改善策を伝える。相手が好意的な対応をしてくれたら快く受け入れ、その上で感謝の気持ちを丁寧に述べる。それができれば、ミスやトラブルがあっても、次につながる建設的な関係性が作れるのです。

齋藤 孝(さいとう・たかし)
1960年静岡県生まれ。明治大学文学部教授。専門は教育学、身体論、コミュニケーション論。著書に『三色ボールペン活用術』『語彙力こそが教養である』(以上、KADOKAWA)、『声に出して読みたい日本語』(草思社)など多数。NHK Eテレ『にほんごであそぼ』総合指導。
(写真=iStock.com)
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