「言った・言わない」というすれ違いから感情的なトラブルに……。そうした言葉によって生じたトラブルを、言葉で解決するにはどうすればいいのでしょうか。明治大学教授の齋藤孝氏は、「まずはトラブルを生じさせない言い方、語彙を知っておくことが重要」と説きます。言葉の“保険”をかける話し方とは――。

※本稿は、齋藤孝『大人の語彙力大全』(KADOKAWA)の第3章「気持ちよく聞き入れてもらえる、大人の言い訳・謝罪・お願い」を再編集したものです。

言葉によるトラブルを回避する

書類の誤記や手配ミス、確認不足や連絡モレといったように、責任の所在と原因が明らかな場合は早く、潔く謝り、リカバリー策を講じることが肝要です。

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厄介なのは、原因が曖昧にも関わらず、気づいたときには事が大きくなっているトラブル。これは、往々にしてコミュニケーション(言葉、言い方)によるものと言えます。「言った・言わない」「そんな言い方をするなんて」……、事実がどうかよりも、感情的になることで火に油を注ぐ結果になってしまうのです。

言葉によって生じたトラブルを、言葉で解決する。この、矛盾とも言える難題については、皆さんも頭を悩ませた経験があるのではないでしょうか。

一度言った言葉は取り消せません。そのため、トラブルを生じさせない言い方、語彙を知っておくことが必要です。

言葉の“保険”をかける

クライアントに、「○月○日までにご返送ください」と書類の記載・捺印をお願いした場合、あるいは、メールで「○月○日までにご返答ください」とお願いした場合などに期日までに返送・返答が来なかったとします。

当日催促するのもはばかられるので、1日くらいは待つでしょう。2日目になっても何の連絡もない場合、相手が忘れていることは明白です。

そんなとき、「お願いしたものがまだ来ないのですが」と言ったら、相手に「あなたのミスですよ」と伝えているのと同じ。人によっては、「なんの連絡もしてこないそっちも悪い」と怒り出すかもしれません。

そんなトラブルを回避するためには、「こちらのミスかもしれませんが」というニュアンスを含めた言い方をします。

「行き違いかもしれませんが、実は、私の手元にまだ書類が届いていないもので、心配になってご連絡しました」
「私のほうでメールを見落としているかもしれないのですが、先日の件、ご返答いただいていますでしょうか」

明らかに相手のミスであっても、それをあえて曖昧にする言い方。万に一つ、億に一つでも、こちらのミスの可能性もあるかもしれないという含みを持たせて伝えると、相手は気持ちに余裕ができて「いえいえ、私が忘れていてすみません」と言いやすくなるのです。

言葉に“保険”をかけることで、相手の気分を害する不要なトラブルを避けられます。また、気持ちの上で相手に「貸し」ができるので、その後のコミュニケーションもスムースにいきます。