水産資源の枯渇や担い手の高齢化などで、長年にわたり衰退を続ける日本の漁業。日本の食を守るという名目で、補助金で漁業を支える図式は常態化している。だが東京海洋大学の勝川俊雄准教授は、その補助金こそが漁業衰退の要因の一つだと主張する。国際的な漁業補助金規制の動きに日本も参加することが、日本近海の乱獲問題の解決にもつながるというその理由とは――。

常態化する漁業補助金

日本の漁業は何十年も衰退の一途をたどっています。漁業の生産性は低く、赤字の経営体も少なくありません。新規参入が途絶えた状態が何十年も続いた結果、漁村で過疎高齢化が進んでいます。

生産性の低い漁業を支えているのは「補助金」です。例えば、燃油価格が上がる度に、漁業者がデモをして、燃油の補助金を勝ち取るのが恒例行事になっています。燃油価格が上がれば、経費が増えるのは運輸業も同じですが、漁業のようには保護されていません。未来の食を守るために、公的資金で一次産業を支援するのは当たり前だと、国民の多くが思っているから、あまり不満の声が上がらないのでしょう。

民主党政権時代には「個別補償」の仕組みが導入され、現在も拡充が続いています。漁業収入安定対策(積立ぷらす)では、漁業者の収入が過去5年の平均よりも減少したときに、「漁業者1」対「国3」の割合で差額が補填されます。これは公的資金による「赤字の補填」ともいえる仕組みです。

世界に広がる補助金害悪論

日本では、漁業を支えるために補助金は不可欠だと考えられているのですが、海外では逆の見方が主流です。不適切な補助金は、乱獲を招き、漁業を衰退させる要因と考えられているのです。

また、補助金はその国の漁業の生産性を損なうだけでなく、自国の資源を獲り尽くした過剰漁船が公海や他国の漁場に向かうことで、国際問題を引き起こします。

1990年前後から、補助金に関する国際的な議論が高まり、世界貿易機関(WTO)などさまざまな場所で漁業補助金の規制について国際的な議論が重ねられてきました。乱獲を防ぐために規制を推進したい欧米諸国に対して、日本、中国および途上国が反対するというのが基本的な図式です。

今年12月にアルゼンチンで開かれるWTO閣僚会議でも、漁業補助金の禁止を目指す交渉が難航しています。欧州連合(EU)やニュージーランドが補助金の全面禁止を訴えているのに対して、日本や中国は自国の漁業の保護のために規制に反対しています。