昨年8月、英フィナンシャル・タイムズ紙が、中国漁業の膨張に関する記事を書いています(*2)。記事の中で、中国漁業者は、「魚が減ったので、遠くの漁場に行かざるを得ない」、「漁業の生産性は低く、燃油の公的補助金をやめれば漁船は半分になる」、「漁業者は自分の代で最後」とコメントしています。燃油に補助金を出せなくなれば、中国漁船は半減した上に、遠出できなくなるのです。
適切な政策で漁業を成長産業に
論理的に考えれば、日本の進むべき方向は自明です。他の先進国と連携し、国際的な漁業補助金の規制を推進し、中国漁業の膨張を食い止めなければなりません。
日本の業界内には、補助金を増額して、漁船を拡大して、中国と張り合うべきという主張もあります。しかし規制がない中で中国と魚を奪い合っても、日本に勝ち目はないでしょう。また、日本と中国で競って乱獲をすれば、水産資源の減少に拍車をかけて、漁業の衰退を早めるだけです。
ノルウェーなど漁業先進国の資源管理の手法を学び、国内の水産資源を回復させれば、いずれは日本の漁業も持続的に利益を生むようになるでしょう。豊かな食文化を背景に持つ日本の漁業は、適切な施策を打てば、成長産業に変わることができます。それを妨げているのが、漁業を助けるはずの補助金なのです。
(*1)"THREE ISSUES OF SUSTAINABILITY IN FISHERIES", Rögnvaldur Hannesson in "OVERCOMING FACTORS OF UNSUSTAINABILITY AND OVEREXPLOITATION IN FISHERIES: SELECTED PAPERS ON ISSUES AND APPROACHES", FAO Fisheries Report No. 782.
(*2)"Chinese fishermen caught up in Asian geopolitical conflict", Lucy Hornby, Financial Times August 22, 2016.
1972年東京生まれ。東京海洋大学産学・地域連携推進機構准教授。東京大学農学生命科学研究科にて博士号取得。東京大学海洋研究所助教、三重大学生物資源学部准教授を経て現職。専門は水産資源学。資源管理を理論的に研究する立場から、日本の漁業を持続可能な産業に再生するため、積極的に発言を行っている。著書に『魚が食べられなくなる日』(小学館新書)、『漁業という日本の問題』(NTT出版)など。