非公共事業のなかでは、最大のシェアを占めるのは、所得補償関連の予算です。一方、水産資源の調査や維持管理のための予算は2.5%に過ぎません。いくら予算が多くても、土木工事と赤字の補填ばかりでは、漁業の生産性の改善は期待できません。

悪玉補助金を断てば漁業は蘇る

伝統的な漁業国であるノルウェーも、日本同様に補助金に苦しんできました。1960年代には、ノルウェー政府も補助金で漁獲能力を拡張していました。しかし1970年代には主要な水産資源である北海ニシンが激減し、ノルウェーの漁業が存亡の危機に立たされたことから、ノルウェー政府は政策の大転換を行いました。補助金を配って漁獲能力を拡充するのではなく、水産資源を回復させるために厳しい漁獲規制を始めたのです。

さらに高齢者を中心に過剰な漁船の退出を促す政策を導入したほか、水産資源が回復するまで漁業者が我慢できるように所得補償を行いました。1980年前後には、補助金の金額は漁業収益の9割に達しました。肝心なのはその後です。

厳しい漁獲規制の結果、北海ニシンを含む多くの水産資源が回復し、漁業が成長産業に変わったのです。1990年代中頃から、漁業の利益は増加し、漁業から安定して高い利益が得られるようになりました。その後、ノルウェーでは漁業補助金がほとんど存在しない状態が継続しています(*1)。

ノルウェーの漁業者や漁協職員と話をすると、ほぼ全員が補助金について否定的です。「補助金は必要な変化を妨げて、漁業を衰退させる」というのが彼らの共通認識です。1970年代の悲惨な状況から、立ち直ったノルウェーだけに、彼らの言葉は説得力を持ちます。

国際的な補助金規制で中国の乱獲を止める

日本の隣には中国がいるので、日本が補助金規制をしたら、中国漁船に魚を根こそぎ獲られてしまうと考える読者もいるかもしれません。しかし、国際的な漁業補助金の規制こそが、中国漁業を押さえ込む妙手なのです。

中国漁業は、安い人件費を背景に拡大してきました。しかし、資源の減少などもあり、近年は伸び悩んでいます。中国の漁業生産は6000万トンですがその大半は養殖です。天然魚の生産は1200万トン程度で、ここ10年は横ばいです。コストの安さが武器の中国漁船にとって、燃油価格の高騰は死活問題です。燃油への補助が禁止になれば、競争力は大幅に低下します。