中国が主張する九段線に法的根拠なし

中国が主張する南シナ海の領有権や行動は国際法に違反するとして、フィリピンが国連海洋法条約に基づいて申し立てていた仲裁手続きの裁定が、7月12日、オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所で下された。南シナ海の領有権に関して、中国は独自に設定した境界線である「九段線」を主張している。九段線は中国南部の海南島付近から大きく南に下って、マレーシア近海で「牛の舌」のようにU字を描いて北上、フィリピン近海を通って台湾に至る9つの破線で地図上に描かれる(ゆえに「牛舌線」ともいわれる)。九段線に囲まれた海域は南シナ海のほぼ全域に当たる。人工島を造成するなど中国が急ピッチで軍事拠点化を進める西沙諸島や南沙諸島、フィリピンや台湾と帰属を争っている中沙諸島東部のスカボロー礁も、すべて九段線の内側だ。それを根拠に、「我々には歴史的権利がある」と中国は海洋進出の正当性を主張してきた。

フィリピンの反中意識は強い(2015年6月12日に起きた反中デモ)。(写真=AFLO)

対して今回、国際的な仲裁法廷が示した判断は「九段線に法的根拠なし」。中国が九段線の内側で主張する主権や管轄権、歴史的権利に国際法上の根拠はない、と断じたのだ。もともと中国は「仲裁裁判所に管轄権はない」として審理に参加してこなかったし、裁定が出ても無視する意向を示してきた。予想通り、全面敗訴に等しい裁定に中国はすぐさま「南シナ海の領土主権と海洋権益に関する声明」を発表して、「仲裁法廷の判決は無効で拘束力はなく、受け入れられない」と反発した。

一方、「南シナ海は中国の領海ではなく公海である」として「航行の自由」を主張するアメリカにとっては追い風の判決で、これを受け入れるように中国に求めている。またフィリピン、ベトナム、マレーシア、インドネシアなど南シナ海の領有を中国と争う国が揃っているASEAN(東南アジア諸国連合)では、中国と領有権問題を抱える国とカンボジアなど中国の影響力が濃い国との間で意見が対立、一枚岩で中国に圧力をかけられる状況にはなっていない。

国際法廷の判決には法的拘束力がある。中国もフィリピンも国連海洋法条約に批准していて、同条約に基づいて行われた仲裁裁判の判決を遵守する国際法上の義務を負っている。しかし国際法廷は判決を強制執行する権限がない。結局、判決を御旗に遵守するように国際社会が圧力をかけるしかないのだが、中国は中国で「判決に従う必要はない」という自らの立場を支持する国を増やすべく多数派工作を展開している。国際法廷が判断を下したからといって、中国は簡単には引き下がらない。それが国際法の現実だ。ちなみにアメリカはいまだに国連海洋法条約を批准していない。