国民負担に転嫁される買い取り価格
再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(Feed in Tariff、以下FIT)が始まってから4年が経過した。2011年の福島原発災害の後、脱原発の流れの中で再生可能エネルギーの普及拡大を目的とする特別措置法が制定され、これに基づいて、当時の菅直人民主党政権の置き土産の形でスタートしたのがFITである。簡単にいえば、風力、太陽光、水力、地熱、バイオマスなどの再生可能なエネルギー源を用いて発電された電気を、国が定めた「価格」で一定期間(10~20年間)、電力会社が買い取ることを義務づけた制度だ。買い取り価格を高めに設定すれば参入インセンティブが働くし、再生可能エネルギーで発電した電気はすべて固定価格で買い取ってもらえるから安心して投資できる。電力会社が「買いたい分だけ買います」というのではリスクが高すぎて誰も投資しない。
ドイツなどでも見てきたように再生可能エネルギーの普及を促す手段として、短期的にはFITは非常に効果がある。ただ、電気会社は再生可能エネルギーの買い取りコストを電気料金に上乗せできる仕組みだから、高額な買い取り価格は最終的には消費者である国民負担になってしまう。
FIT導入後は太陽光発電の設備申請が急増した。導入2年で認定された太陽光発電設備の総発電量は約7000万キロワット。再生可能エネルギーの9割以上を太陽光発電が占めるようになった。太陽光発電設備の申請が急増した最大の理由は、その買い取り価格にある。買い取り価格は再生可能エネルギーの種類ごとに異なるが、当初に設定された太陽光発電(10キロワット以上の産業用)の買い取り価格は1キロワットアワー(kWh)あたり40円と、他の電源に比べて破格の高さだったのだ。
確かに太陽光の発電コストは他の電源より高い。14年の国の試算で石油火力は30~40円/kWh、LNG(液化天然ガス)火力で約13円。原子力は約10円だが、廃炉などのコストを全部込みにすると倍の20円程度にはなるだろう。対して太陽光の発電コストは約30円だが、福島の原発事故をきっかけに世界的に太陽光発電の導入が進んだおかげで発電コストはどんどん下落している。20年までには火力や原子力を下回るという見方もあるくらいだ。
FITの買い取り価格は1年ごとに見直される。太陽光(産業用)の買い取り価格も12年度の40円から36円、32円、29円、今年は24円と徐々に下がってきた。しかし導入初年度に認可を得た事業者は20年間にわたって40円の固定価格で買い取ってもらえるのだからボロ儲けだし、計算上は今の24円で参入しても利益は見込める。FITという制度が稼働しているかぎり、それが全部国民負担に転嫁されるわけだ。
電力の固定価格買い取り制度を導入する際、参考にしたとされるのがドイツのFITである。ドイツは00年から固定価格による買い取り制度を取り入れて、発電に占める再生可能エネルギーの割合は3割近くに達している。しかし、買い取り価格が上乗せされて電気料金が高騰、国民負担が大きく膨らんだ。これを解消して経済合理性に適ったものにするために、試行錯誤しつつ制度の見直しを何度も行っている。そうした状況は日本がFITを導入する時点でもわかっていたはずだ。しかし、原発事故後の過剰な再生可能エネルギーブームの中で、当時の民主党政権はこれを加速するのが国是だと思い込んで、十分な研究、検討がないままにFITを拙速に取り入れた。そのツケが今も続いているのだ。