2016年は電力自由化をはじめ、家計に深くかかわるルールの改正が行われる。それらをいかに活用したらよいのか──。

東日本大震災での原発事故以降、電気料金が急速に上がり、家計を圧迫してきた。東京電力の平均モデルの月額電気料金は、2009年には約6500円だったものが、15年には約8500円にまで上昇している(図参照)。そうしたなかで朗報ともいえるのが、小口電力の自由化だ。

電力小売りは現在、契約電力50キロワット以上の大口需要家向けしか自由化されていないが、16年4月から販売電力量の約4割を占める住宅などの小口需要家向けも全面自由化される。これまで東京電力、関西電力など各地域の電力会社(九電力)が独占していたこの小口電力事業については、すでにガス会社、石油会社、通信会社など「新電力」も続々と参入を表明している。

つまり、いままで九電力から電力を買うしかなかった一般家庭も、ニーズに合わせて電力会社を選べるようになるわけだ。経済ジャーナリストの荻原博子さんは、「電力自由化は国民生活にとって16年で最大のイベントです」と期待を寄せる。

自由化後は競争原理が働いて「電気料金が5~10%は下がる」というのが、電力問題に明るい賢人たちの共通の見解だ。プライスウォーターハウスクーパースのパートナーである狭間陽一さんも、その賢人の一人である。

「15年8月に行った当社のアンケート調査では、消費者は電気料金に関して敏感なことがわかりました。電気料金が5%下がれば9.0%が、電力会社の乗り換えを検討すると回答しています。小口電力市場の主戦場は首都圏ですが、最大で2割前後の人が新電力にスイッチする可能性があります」

しかし、電力料金を10%以上下げるのは難しそうだ。ネックになるのは高い託送料金(九電力に支払う送電線の使用料)。東京電力の場合、従量電灯Bプランの第二段階(121~300キロワット時)での1キロワット時の料金は25.91円。それに対して同社が05年7月に申請した小口向けの平均の託送料金は一キロワット時当たり8.61円で、約3分の1を占める。この下方硬直性がある限り、さらなる大幅な引き下げは困難だろう。