不動産とITを融合させたリーテック(不動産テック)市場が勢いを増している。それを受けて異色のベンチャー企業には、「プレイステーションの生みの親」として知られるソニーの元幹部など、IT業界の著名人が次々と集まりつつある。いまだにファックスが飛び交う不動産業界を、デジタルの力で革新できるか――。

プロサッカー選手を捨てビジネスの世界へ

GA technologies(ジーエーテクノロジーズ、以下ジーエー)の創業者の樋口龍社長は、1982年東京・品川の生まれ。小学生のころから世界的なサッカー選手を目指し、強豪の帝京高校に進学、全国大会にも出場した。卒業後、育成選手として、ジェフユナイテッド市原(現ジェフユナイテッド市原・千葉)に5年間所属した。

樋口龍 GA technologies社長

育成選手では「プロ」ではないので、給料はもらえない。アルバイトを続けながらプロを目指したが、23歳で断念。その時、ソフトバンクの孫正義社長の評伝『志高く』という本に出会い、衝撃を受けたという。

「それまでビジネスの世界は全く知らず、スーパースターだった三浦知良さんにあこがれるサッカー少年だった自分には、ビジネスと言えば50代、60代のおじいさんの世界だと思い込んでいました。しかし孫社長は中卒で米国へ留学し、帰国後すぐに起業。さらにNTTに戦いを挑み、当時独占市場だった通信業界を変革できないならば、『俺は死んでもいい』と総務省に乗り込んでいます。サッカー選手であれば人生をかけた覚悟で臨んでいる人はいると思っていたが、ビジネスの世界にも死ぬ気でやっている人がいると、そのとき初めて知ったんです」(樋口社長)

樋口氏は孫氏の評伝から「世の中を変えるにはITを使うことが最短・最適である」と考えるようになるが、自らが取り組む具体的なマーケットを絞ったのは2007年のこと。「いろいろ調べるうちに、規模は大きいけれどテクノロジーが遅れている分野として不動産業界が浮かび上がってきました」(樋口社長)。

まず、業界の仕組みを学ぶため中堅不動産デベロッパーに入社。徹底した努力を重ね、気が付けば7カ月でトップセールスになっていた。樋口社長は自信を持って「働いた時間ではこの当時、日本で5本の指に入るのでは」と言う。

「サッカー選手時代の体験から、まず、何よりも努力が肝心だとわかっていました。初動の努力を100点でなく、300点、400点することが大切なんです。いかにお客さまを魅了するかを徹底的に鍛え、コミュニケーション能力とマネジメント能力を身に付けることができました」