過労死基準に抵触する残業100時間
1カ月の残業時間の上限が100時間までなのか、それ以下にするのか揉めていた労使の議論に終止符が打たれた。
安倍晋三首相は3月13日、日本経済団体連合会(経団連)の榊原定征会長、日本労働組合総連合会(連合)の神津里季生会長と首相官邸で会談を行い、残業の上限を「月100時間未満」にするように要請したことで決着した。
すでに現行の労使で結ぶ協定(36<サブロク>協定)の限度時間である月45時間、年間360時間を法律に明記し、特例として労使協定を前提に年間の残業時間の上限を720時間とすることは決まっていた。そしてその範囲内で月45時間を超えるのは6カ月までとし、繁忙期は「2~6カ月の平均で80時間を超えない」かつ「きわめて忙しい1カ月の上限は100時間未満」とする歯止めをかけることになった。
特例の労使協定を結ばずに月45時間、年間360時間を超えた場合、また協定を結んでいても月平均80時間、1カ月最大100時間、年間720時間を社員が1人でも超えた場合、確実に摘発・送検される絶対的上限規制になる。
それにしても労使はなぜ100時間という数字にこだわるのか。 そもそも年間の限度時間の720時間もかなり長い。年間52週、週5日労働とすれば年間の労働日は260日。法定労働時間(8時間)に換算すれば2080時間。これに720時間を加えると年間2800時間になる。最も労働時間が長いとされる小売業の2000時間超を上回るとんでもない労働時間だ。
なぜ100時間なのか。この数字に労使がこだわる理由の1つは過労死基準との関連だ。脳・心臓疾患の労災認定基準では発症前の連続する2カ月の時間外労働の平均が80時間超であること、発症前1カ月が100時間超の場合は業務と発症との関連性が強いと評価されている。月の上限が100時間を超えれば過労死基準に抵触するが、100時間未満にすれば法的リスクをギリギリで回避できるというメリットがあるからかもしれない。