残業上限月60時間は本当に可能か?

残業時間の上限規制に対する政府案が示された。上限規制と聞いてピンとこない人もいるかもしれない。なぜなら今でもいろんな数字が飛び交っているからだ。

日本の労働基準法(労基法)では使用者は1日8時間、週40時間を超えて労働させてはならないと定めている。これが法定労働時間である。これ以上働かせると「使用者は懲役6ヶ月以下、罰金30万円以下の罰金」が科される規定がある。だが、労基法36条に基づき、使用者が労働組合と協定(36<サブロク>協定)を結べば1週間15時間、1カ月45時間、1年間360時間という限度で時間外労働させることができる。

なんだ、日本にも上限規制があるじゃないかと思うかもしれない。ところがこれを超えて働かせることができる「特別条項付36協定」がある。この協定を結べば1年間に6回(6カ月)まで限度時間を超えて働かせることができる。しかも限度時間はなく無制限、事実上の青天井になっている。

EUには1週間48時間を超えてはならないとする絶対的上限時間があるが、日本にはなかった。これが長時間労働の温床になっているのは間違いない。そこで法的に絶対的上限労働時間を設けようというのが今回の政府案だ。これが実現すればじつに70年ぶりの法改正となる。

政府案は現行の36協定で結ぶ時間外労働の限度時間である月45時間、年間360時間を法律に明記し、これを超えた場合は罰則を科す。従来の限度時間は「大臣告示」というあくまで行政指導の基準であり、法律に格上げしてより強制力を持たせようというものだ。だが、上限ではない。

特例として労使協定を結べば年間の時間外労働時間を1年720時間(月平均60時間)にするとしている。これを社員が1人でも超えたら確実に逮捕・送検される絶対的上限規制になる。しかし、1年間で720時間だと、月によっては脳・心臓疾患の労災認定基準である発症前1カ月の時間外労働100時間超も発生してしまう可能性が出てくる。過労自殺した電通の高橋まつりさんは105時間を超えていたことがわかり、労災認定を受けたが、同じような犠牲者を出してしまうことになりかねない。