本当に過労死や長時間労働はなくなるのか
本来なら月60時間を超えないようにすべきだが、業務の繁忙期に対応できないという経済界の要望で、例外として「月最大100時間」「2カ月の月平均80時間」を年間720時間以内で認める案が出されている。労働組合の中央組織である連合は過労死を許すものと反発しているが、最終的にこれに近い案で合意しそうだ。
日本に罰則付きの絶対的上限規制が設けられることは画期的なことだ。だが、本当に過労死や長時間労働はなくなるのだろうか。
企業の反応はさまざまだ。ネット広告業の人事部長は「これまで働き方の見直しを実施して社員の月平均残業時間を45時間程度に減らすことができた。それでも60時間を超える社員もいるが、最大80時間であればなんとかクリアできると思う。だが、100時間を認めれば何のための上限規制かわからなくなる。国が絶対にやらなければいけないのは健康管理のはず。その意味では過労死が発生しかねない100時間を認めるのはおかしいのではないか」と指摘する。
逆に上限規制に危機感を募らせるのはゲーム関連会社の人事課長だ。
「うちもさまざまな残業削減策を講じているが、ゲームクリエイターは帰れと言っても帰らない社員も多い。それだけ仕事が楽しくてしょうがない。自宅でも寝ないで平気で仕事に没頭する社員もいるし、人事が注意すると『好きで仕事をやっているんだからほっといてくれ、倒れそうになったら自分で休むから大丈夫だ』と反発してくる。法律が施行されたら立件される恐れがあり、なんとかしないといけないが、できれば職種によって適用除外を検討してほしい」
建設業の人事課長は月最大100時間、2カ月の月平均80時間が認められればなんとかクリアできそうだと言う。
「以前は80時間、100時間超えの社員は珍しくなかった。現在では社員の月平均残業時間を45時間程度にまで下げたが、繁忙期があるうえに、取引先との関係でどうしても突発的な仕事も発生する。妥当な線ではないかと思う。だが、同業他社や知っている企業では80時間を超える社員が多く、時短に苦労しているところもある。仮に法律が施行されたら非管理職は60時間以内でやらせるとしても、残った作業を時間管理が適用除外されている管理職が担うことになると言っていた。そうなると一番働いている管理職の負担がより重くなるだろう」