政府の「働き方改革関連法案」の審議が始まったが、すでに労使の取り組みが始まっている。残業時間の罰則付き上限規制への対応、非正社員の無期転換ルールへの取り組み、非正社員の処遇改善を目指した同一労働同一賃金の法制化への対応だ。取り組むテーマはハッキリしているのに、働き方改革が進まないのはなぜか、ジャーナリストの溝上憲文氏が分析する。

上限規制「年間720時間」は守られるのか

写真=iStock.com/South_agency

今年の春闘では賃上げと並んで「働き方改革」が大きな焦点となった。政府の「働き方改革関連法案」の国会審議がようやく始まったが、すでに労使の取り組みが始まっている。1つ目が残業時間の罰則付き上限規制への対応、2つ目が4月から本格化した非正社員の無期転換ルールへの取り組み、3つ目が非正社員の処遇の改善を目指した同一労働同一賃金の法制化への対応だ。

改正労働基準法の残業時間の上限規制は原則として「年間360時間、月45時間」とし、特例として「年間720時間」、月平均60時間に制限される。時間外労働の削減はすでにだいぶ前から多くの企業がノー残業デーや定時退社の奨励などの施策を実施しており、全体の残業時間も徐々に減少している。ただし法制化されると、社員が1人でも違反するだけで罰則を科せられる。

今春闘で日本労働組合総連合会は(連合)は法制化を踏まえて、(1)36協定は「月45時間、年360時間以内」を原則に締結する、(2)やむをえず特別条項を締結する場合は年720時間以内とし、より抑制的な時間となるよう取り組む、(3)休日労働を含め、年720時間以内となるように取り組む――ことを各労組に求めた。

(3)の休日労働を含む720時間以内とは、法律案要綱の「年720時間以内」が休日労働以外の時間外労働しか含まれないことを意識したものだ。つまり、1カ月100時間未満、および月平均80時間以内という制限の範囲内であれば、休日労働時間は自由に設定できることになる。結果として、時間外労働時間と休日労働時間の合計が80時間×12カ月=年960時間の労働が可能になる。

大手電機メーカーも加盟する産業別労働組合の電機連合の2016年度の総実労働時間は2018.3時間。13年度以降、4年連続で2000時間を超えている。36協定の締結状況では、1カ月の時間外労働時間は80~100時間以下が製造業全体では15.8%であるの対し、電機連合の加盟組織は22.0%も存在する。100時間超は製造業の事業場が4.0%であるのに対し、電機連合は14.0%。年間の労働時間でも800~1000時間以下が製造業の12.2%を上回る23.0%も存在し、上限規制の年720時間を超えている企業も多い。

電機連合の野中孝泰委員長は「他産業に比べて時間労働の協定締結時間が長いのは問題。1年間720時間以下の締結は急務な課題だ」と語る。残業時間以外でも電機連合加盟組合の日立製作所の労組が特別条項の限度時間の年960時間の上限を720時間に引き下げるとともに、終業と始業の間に最低11時間の休息を確保する勤務間インターバルの導入を要求し、合意している。