だが、残業時間の削減は必ずしもよいことばかりではない。大和総研の試算によると、残業時間が1人月60時間に制限されると年間の残業代で最大で8兆5000億円(雇用者報酬の3%)減少するという(「第194回日本経済予測」2017年8月17日)。残業時間の削減で実質賃金も減少することになるが、その分をいかに給与に反映させるかも労使の今後の大きな課題だろう。

非正社員の無期転換が進まない理由

今年4月から本格化した非正社員の無期転換も労使の重要な課題だ。通算契約期間が5年超の有期雇用労働者に付与される無期転換権は2013年4月1日以後に開始する有期労働契約が対象になる。契約期間が1年の場合、更新を繰り返して6年目の更新時を迎える2018年4月1日から無期転換の申込みができ、1年後の19年4月1日から無期労働契約に移行する。4月に5年超を迎える転換対象者は450万人と推計されている。

パートタイム労働者の組合員が半数以上を占める繊維・小売業等の産業別労働組合のUAゼンセンには通算契約期間が5年超の有期雇用労働者が3~4割を占める。

今年4月2日時点でパート労働者277組合(約67万人)、契約社員115組合(約3万4000人)で無期転換ルールの実施を労使で確認している。そのうち通算5年を前に無期転換の実施を確認している組合はパートで46組合、契約社員で32組合。人数ベースでは契約社員の3割以上にあたる。

一方、無期転換への対応は全体的に遅く、雇止めの懸念も指摘されている。多数の顧問先を抱える社会保険労務士は「4月前に雇止めにするという経営者もおり、顧問先企業で雇止めするのは1割程度いる。3月末までに駆け込みの雇止めが多発する可能性もあり、4月以降、雇止めされた社員との間で訴訟も含めたトラブルが増えるのではないか」と指摘する。すでに4月2日、雇止めされた日本通運に勤務していた女性が地位確認を求めて東京地裁に提訴する事案も発生している。

無期転換ルールは非正社員の雇用の安定を図る政策であるが、処遇の改善を目指すのが同一労働同一賃金の法制化(パートタイム・有期雇用労働法)だ。同一労働同一賃金については、すでに2016年12月に政府の「同一労働同一賃金ガイドライン案」が示されている。新法は非正規労働者に均等待遇を義務づけるとともに「待遇差の内容やその理由等」に対する説明義務を課している。19年春闘ではガイドラインや法制化を意識した取り組みも始まっている。

UAゼンセンは18年春闘の方針でも「法改正の動きをふまえ、雇用形態間での均等・均衡処遇の取り組みをさらに進める。雇用形態間に不合理な待遇差がないかを検証し、不合理な待遇差がある場合には、人事制度の改定を含め是正する」としている。ガイドライン案は退職金については触れていないが、退職金についても「正社員との均衡等を考慮し、労使で合理的な制度を構築する」としている。

また自動車総連は「同一価値労働同一賃金」の実現の観点から昨年秋に100項目のチェックリストを作成し、福利厚生や食堂の利用などについて加盟組合で検証し、実現できていない場合は経営側に要求することにしている。自動車総連の高倉明会長は「同一労働同一賃金の法制化によって法廷闘争まで持ち込まれるケースが増える可能性がある。今後はガイドライン案の充実が求められるが、我々も労使でより具体的な方向性を示していきたい」と語る。