アベノミクスの成長戦略である労働改革の目玉として注目された裁量労働制の拡大と高度プロフェッショナル制度の創設は暗礁に乗り上げている。政府が主導する働き方改革では長時間労働がなくならない理由とは。

裁量労働制で長時間労働はなくならない

日本の長時間労働をどのようにして変えていくのか。安倍政権は2つの対策を打ち出した。1つはこれまで法律上青天井だった労働時間に上限を設けること(罰則付き上限規制)。もう1つは自分の裁量で働く時間を決められ、出勤・退勤が自由にできる「裁量労働制」の拡大と「高度プロフェッショナル制度」の創設である。

政府は自由な働き方ができると労働時間も短くなり、子育てや介護に時間を割くことができるので仕事と家庭の両立が可能になると主張してきた。だが、出勤・退勤が自由にできる制度はすでにある。フレックスタイム制を導入している企業は少なくないが、1カ月合計の所定労働時間を満たせば、何時に出社し、退社しようがかまわない仕組みである。

では、裁量労働制とどこが違うのか。出勤・退勤の自由は同じだが、その違いは所定労働時間をクリアする必要がないこと、もう1つは残業代が出ないことだ。フレックスタイム制は1カ月の所定労働時間を超えた分は残業代として支払わなければならない。それに対して裁量労働制は労使が1日のみなし労働時間を9時間と決めれば、法定労働時間の8時間を超える1時間分の残業時間に相当する手当は出るが、9時間を超えて働いても残業代が出ない。

写真=iStock.com/tunart

ただし、夜10時以降の深夜労働や休日に労働した場合は残業代を支払う必要がある。さらに「高度プロフェッショナル制度」(高プロ制度)とは、この深夜労働や休日労働の残業代も支払う必要もなく、法律に定めている休憩・休息時間も付与する必要もない。こうした残業代も出ない労働時間規制の適用除外をアメリカではホワイトカラー・エグゼンプションと呼ぶ。

しかも対象になるのは管理職以外の社員である。管理職は法律上、自己裁量権を持つ存在と見なされているからだ(深夜労働の残業代は支給)。

裁量労働制には専門業務型裁量労働制(専門型)と企画業務型裁量労働制(企画型)の2種類があり、専門型の適用労働者は約80万人、企画型は約30万人とされている。企画型は「企画・立案・調査・分析」業務に限定されているので、政府は新たに法人営業職などに拡大しようとしていた。

残業代が出る、出ないはさておき、出勤・退勤の自由があり、フレックスタイムと違って所定労働時間分働く必要がなく、少ない労働時間でも許されるとすれば、政府が言うように長時間労働は減るかもしれない。

だが、それはまさに幻想にすぎなかった。実態は労働時間が短くなることはなかったのである。