「高プロ制度」導入にこだわる理由

だが、本人同意があっても実態は裁量権のない働き方を強いられている。先に紹介した労働政策研究・研修機構の裁量労働制の調査によると、日々の出勤・退勤において「一律の出退勤時刻がある」と答えたのは専門型の社員が42.6%、企画型が49.0%の割合を占めている。半数近くの人の会社が出退勤時刻で縛っている。しかも、専門型・企画型の社員の40%超が遅刻した場合は「上司に口頭で注意される」と答えているのだ。

要するに「自由な裁量」を謳いながらも「不自由な働き方」をしている人が少なくないのである。高プロ制度を導入しても、政府が言うような「自律的で創造的な働き方」ができるだろうか。

にもかかわらず高プロ制度の導入になぜ固執するのはなぜか。それは日本にホワイトカラー・エグゼンプションを導入することが経済界の長年の悲願だったからだ。経団連は制度の導入を長年主張し続けてきたが、裁量労働制はホワイトカラー・エグゼンプションの中間形態として、経済界の要望で実現したものだ。だが本丸が高プロ制度の実現だ。

第1次安倍政権下の2007年に導入が予定されていたが、世間から「残業代ゼロ法案」との批判を浴び、廃案になった。だが、第2次安倍政権下で今度はアベノミクスの成長戦略の労働改革の目玉として、装いを変えて再浮上し、今回の高プロ制度につながっている。

もちろん人事関係者の間でも高プロ制度を歓迎する声もある。大手自動車関連メーカーの人事担当者は本音をこう語る。

「社員の中には時間を気にしないで思う存分働きたいという人もいます。スキルアップしたい、キャリアを積みたい人にとっては残業規制で会社を閉め出されても外や自宅で仕事や勉強をしているはずです。会社としても技術開発に携わる専門職には労働時間に関係なくマイペースで働いてもらいたいという思いもある。制度が導入されると今回の労働時間の上限規制も適用されませんが、もちろん会社として健康管理には十分に注意していくつもりです」

時間を気にしないで思う存分働きたい、あるいは働かせたいという気持ちもわかる。だが、その思いと今回の「長時間労働の削減」という政府の法案提出の趣旨とは明らかに異なる。にもかかわらず政府は「働き方改革関連法案」という一本化した法案として国会に提出しようとしている。これは安保法制のときのようにいくつもの法律を抱き合わせて出すことで国会成立を容易にしようとする手法と同じである。

高プロ制度が長時間労働の削減につながるという立て付けが崩れた以上、他の法案と切り離して議論するのが筋だろう。