「正社員の処遇低下」という副作用も
こうした労働者の処遇改善に向けた労働組合の積極的な取り組みは大いに評価されるべきだが、解決すべき課題もまだ残っている。しかも非正社員の無期転換と同一労働同一賃金の法制化の副作用として正社員の処遇悪化をもたらす可能性もある。
1つは「同一労働同一賃金」に名を借りた正社員の処遇切り下げである。本来、非正社員の処遇を正社員に近づけようとすれば当然、人件費が増えることになる。だが企業の中には人件費増を嫌い、正社員の処遇を下げることによって対応するところも出てくるかもしれない。すでに労組の同一労働同一賃金の要求に対し、日本郵政グループが正社員の一部の住居手当を廃止することが大きな反響を呼んでいる。
あるいは前述した主に正社員の残業代削減分の原資を非正社員の処遇向上に充てるところも出てくるかもしれない。そうなると安倍政権が意図している非正社員の処遇改善による賃金の上昇と需要拡大を通じて景気浮揚を図る成長戦略に水を差すことになる。
もう1つは無期転換ルールを定めている労働契約法18条では、無期転換しても賃金などの労働条件は有期契約時のままでよいとされている。そのため各労組は無期転換後の正社員化も含めた処遇向上も今春闘での課題に掲げていた。実際は小売、飲食、サービス業など人手不足に苦しむ産業は正社員化や待遇の改善を実施するところも少なくない。だが、有期雇用労働者が少ない製造業などでは9割以上が処遇改善に後ろ向きという指摘もある。
電機連合も統一目標基準として「無期転換者を正社員」とすることを掲げている。電機連合の加盟組合の実態調査によると、有期契約労働者が4.7万人、パート労働者が1.1万人存在するが、パート労働者については70%超が処遇改善なしの無期転換というのが実態だという。機械・金属産業の産業別組合であるJAMでは加盟組合の非正社員の割合は3割程度だ。現在、無期転換申込権に関するチェックリストを用意して、取り組みを強化しているが、無期雇用後の処遇改善はあまり進んでいないのが実態だ。
そうなると今後、同じ無期雇用契約でも処遇の高い正社員と低いままの多数の無期転換社員が混在するようにする。JAMの安河内賢弘会長は「有期契約の労働条件のまま雇用期間が無期になるだというところが大半だ。低い処遇のまま放置し続けると、経営が厳しくなれば、正社員の処遇も低いほうに流れる可能性がある」と危惧する。
正社員にとっても人ごとではない。労働者の処遇改善を目指した働き方改革に関する法律であるが、逆手にとって悪用すれば正社員の処遇低下につながりかねない危険性も孕んでいる。