「周囲からの評価」に耳を傾けていますか
海外の人に「東京といえば、なにをイメージしますか」と聞くと、どう答えるでしょうか。日本人の反応は、東京タワーや東京スカイツリー、皇居二重橋といった答えでしょうか。私が海外の友人に聞いてみたところ、複数の友人が「渋谷のスクランブル交差点」を挙げました。海外からの視点では、あの交差点をみると「あ、ここは東京だ」とピンとくるのです。日本人だけで議論していても、なかなか気付かない視点です。
あらためて、ビジネスでも政治でも、「マーケティング目線」が重要だと感じる一例です。つまり、肝心なことは、「自分がどう思うか」ではなく、「周囲がどう評価するか」なのです。
嬉しいことに海外からの観光客は過去最大です。日本政府観光局によると、2016年10月に訪日外国人旅行者数が初めて2000万人を超えました。そのうち約6割の1200万人が東京を訪れます。「観光立国」は日本の成長戦略の柱です。パリやニューヨークといった諸都市に比べれば、東京の観光客数はさらに伸ばす余地があるはずです。東京の観光客をもっと増やすにはどうすればいいのか、私はいつも考えています。
いま東京都が取り組んでいるのは、東京の「観光」と「ブランディング」です。渋谷のスクランブル交差点のように、視点を少し変えるだけで新たな価値を再発見できるはずです。
都では私が知事になる前に、「& TOKYO(アンドトーキョー)」というロゴをつくりました。旅行地としての東京を強く印象づけようというものですが、海外からのお客さまからは「意味がわからない」という意見も寄せられているため、調査をしています。
11月には「東京ブランドのあり方検討会」を開きました。ロゴのほか、観光ボランティアのユニフォームなど、これまで注ぎ込んだ費用と今後の投資の効果を確認し、より効果のあるものにアップグレードしたいと思います。20年の東京五輪では、東京都としても1万人超のボランティアの協力が必要です。応募が殺到するような状況をつくりたいものです。
強力なブランドを構築するためには時間がかかります。もちろんセンスも必要です。そして、新しいものをつくるよりも、歴史や伝統を再発見することが近道になります。幸いにも東京には「江戸」という豊かな歴史があります。これを活用しない手はありません。
観光立国であるフランスには「コルベール委員会」という組織があります。約60年前、フランスの文化・生活を世界に広めようと、シャネルやエルメス、ゲランといった高級ブランドが立ち上げたものです。商売ではライバルであっても、フランス文化を広めることは互いにプラスになります。そのほか関税の撤廃や模造品の撲滅などに共同で取り組んでいます。
東京都ではコルベール委員会を参考にして、12月に「江戸東京きらりプロジェクト推進委員会」を始めました。創業数百年といった、羊羹の虎屋、蕎麦の更科堀井などの皆さんをメンバーに加え、シャネル日本法人のリシャール・コラス社長にも参加いただいています。
東京には魅力的な伝統工芸がたくさんあります。たとえばカットグラスの「江戸切子」。世界的に有名なチェコの「ボヘミアグラス」に匹敵する高い技術と卓越した美しさをもっています。ただ残念ながら世界的な知名度は不十分です。海外へ売り込むためには、伝統工芸を「マーケティング目線」で捉え直す必要があるでしょう。