「ハコモノ」ありきの未来計画は時代遅れ

2017年、勝負の年の幕開けです。今年の私の方針は「できない理由より、できる理由を探す」です。問題点を見つけて、「○○だからできない」とあきらめるのは簡単です。しかし、それでは物事は前に進みません。解決すべき課題に対して、どうすれば「できる」のか。そのことを徹底して考え、実行していきます。

2020年東京五輪のボート・カヌー、水泳、バレーボールの主要3会場の見直しもそうです。経費削減のため既存施設の活用を検討してきましたが、結果として3会場の新設を決めました。たとえばバレーボール会場として検討を行った「横浜アリーナ」(横浜市港北区)は、会場周辺の用地確保や複雑な政治的背景もあって、「有明アリーナ」を新設することで落ち着きました。

主要3会場での「既存施設の活用」はできませんでしたが、見直しの結果、「アスリートファースト」という前提を守ったうえでも経費を削減できることがわかりました。ボート競技などの「海の森水上競技場」は高コストのテレビカメラ用の桟橋を取りやめ、水泳の会場では大会後の「減築」を見直すことに。こうした見直しを進めた結果、3会場の経費は、当初案の1578億円から1166億円へと、約400億円削減できることになりました。

「有明」はスポーツと文化の拠点に変わる 2020年東京五輪の競技会場が造られる有明。バレーボール会場となる「有明アリーナ」のほか、体操競技場や既存施設である「有明テニスの森」もテニス会場として整備。「有明レガシーエリア」としてスポーツと文化の拠点となる。(写真=時事通信フォト)

会場の見直しで重要なことは、経費削減だけではありません。大会終了後の活用策を踏まえた整備が求められます。このため有明アリーナ周辺を、「ARIAKE LEGACY AREA」と命名し、スポーツや音楽などのイベントに有効活用できるレガシー(遺産)にします。

「甲子園」と聞けば、そこからは「野球」のイメージが湧いてきます。同様に、「有明に行く」と聞けば、「スポーツに行く」と発想できるように、ブランディングを行います。5人制サッカーやスポーツクライミングなどの競技会場は有明エリアに集中移設する計画です。点と点でパッチワーク状態になっていた会場選びを、ビジョンを持って一体化することで、有明エリアを東京の新たなスポーツと文化の拠点にする考えです。

民間の力も必要です。これまでの施設整備では民間事業者の創意工夫を取り入れるという点が欠けていたように思います。今回、東京都として「コンセッション方式」の導入を検討しています。

コンセッション方式とは、官と民がパートナーを組んで事業を行う手法です。有明アリーナでは、所有権を東京都が持ったまま、施設の運営を民間に任せることで、魅力的で継続性の高い施設の運営を行います。東京都内では豊島区が民間企業と組んで、事実上の税金ゼロで区庁舎を建て替えた事例もあります。運営に意欲を持つ事業者を募ることで、いろいろなアイデアが出てくると期待します。

東京五輪の開催費用は、組織委員会が、1兆6000億~1兆8000億円にのぼると発表しました。その費用は巨額ですが、コストだけではなく、将来への投資という考えこそ重視するものです。

そのうえで興味深い先例があります。東京市長(現在の都知事)などを歴任した後藤新平は、1923年の関東大震災をきっかけに、現在の東京のグランドデザインを描きました。ピンチをチャンスに変えた好例でしょう。

後藤は震災の際、「帝都復興院総裁」として、当時の国家予算に匹敵する13億円という壮大な規模の復興計画を立てました。最終的に承認されたのは、その半額程度でしたが、いまの東京はこの復興計画をもとに形づくられ、昭和通り、内堀通りなど、現在の幹線道路として生かされています。今回の東京五輪も、未来のグランドデザインを考えるきっかけとします。ただし、目に見える「ハコモノ」の重視ではありません。