究極の後出しジャンケンと騒がれた鳥越俊太郎氏の東京都知事選への立候補。知名度から先行しているとされる鳥越氏だが、どうも雲行きが怪しい。メディアから政策に関する質問を投げられると「わからない」「これから勉強する」と繰り返すばかり。単にみこしとして担ぎ上げられただけで、政策については民進党などの野党連合に完全に丸投げということか。あるいは自前で急ごしらえの政策を準備するつもりか。いずれにしても都知事としての資質に疑問を感じざるをえない状況だ。

闘病の末ステージ4のがんからは生還したが都知事選も闘い抜けるか。(時事通信フォト=写真)

また、鳥越氏にとって唯一オリジナルの公約といえるのが都民の「がん検診100%」だが、こちらについては医学界から疑問の声が湧いている。元・東京大学医科学研究所特任教授で、NPO医療ガバナンス研究所の理事長を務める上昌広(かみ・まさひろ)氏はこう語る。

「これまでがん検診を受けていた人は、家族にがんの人がいたり、自分ががんを心配している、ハイリスクの人が多かったと考えられます。このような人は、検診を受ける十分なメリットがありました。しかし、リスクが高い人、低い人を問わず、全員が検診を受けることになれば、多くの『偽陽性』の人が出てくる可能性があります」

偽陽性とは、実際にはがんではないが、一次検診において、「がんの疑いあり」と診断されること。しかし、その後の精密検査で実際にがんだった人は胃がんでは2.3%、乳がんでは4.6%と非常に低い確率だ。(大阪府立成人病センター がん予防情報センター発表)

もしも100%検診が実現されれば、それだけでも莫大な税金が投入されることになるが、偽陽性と診断された人も負担を強いられる。検査費用だけではない。結果が出るまで、自分はがんなのではないかとおびえる心理的な負担もある。さらに上氏が指摘するのは、がんと認知症との兼ね合いだ。

「これから東京は急速に高齢化します。それにともない高齢者のがん患者も増えていきますが、高齢者の場合、認知症との兼ね合いで議論する必要があります。数年前、英国の医学誌の編集長が『がんで死にたい』という内容の論文を書いて話題になりました。認知症の究極の予防策は、認知症になる前にがんで死ぬことだという皮肉な意見です。これからの東京で求められるのは、とにかくがんを見つけて治療しさえすればいいという旧来の価値観の押し付けではなく、成熟した大人の意見です。がん検診だけを取り上げて議論することは、ややバランスを欠いています」

がん検診100%を達成したところで、それが都民の幸せにつながるのかというと、決してそうではない。たしかにがんを早期に発見できる可能性はあるが、それ以上の不幸を撒き散らしかねないのだ。