よく考えず「EU離脱」選ぶ近道を与えたのは何か

欧州共同体(EU)からの離脱を是としたイギリス国民投票の結果は、残留派有利という大方の予想を裏切り、世界各地に衝撃をもたらした。結果が予想外であるほど、その原因は複雑に絡み合っているという世の常にならって、今回の結末の原因も単純とは思えない。

実際、社会経済的階層、年代、教育歴やそれに伴う職種の違い、地方vs都市部、そしてこれと関連して移民流入の程度による地域差など、さまざまな差異を対立軸として見立てた比較が、投票以前から繰り返しなされてきた。対立軸や社会層に分けて大衆の行動を分析する視点は、現象を理解したり説明したりするのに役立つのはもちろんだが、分析される側もそのような視点を取り入れるために、それがお手軽な手がかりになってしまい、肝心の争点を十分に考慮した判断がしにくくなる可能性も無視できない。

つまり、「自分は若者だから」とか「都会の連中とは違うから」といった分類による一種のアイデンティティーが、ろくに争点の中身を検討せずに結論を出してしまう近道を与えることになりかねないのである。特に今回のように、考慮すべき事柄が複雑で、どちらかの選択をしたときの結果を予想することが難しい場合は、こうした思考過程の影響をなおさら受けやすい。

その最たる例がナショナリズムで、これは「今日が独立記念日だ」と叫んだ離脱派だけでなく、「ヨーロッパに残ることがブリテンを強くする」と訴えた残留派にも見られたことは興味深い。