「移民の流入」と「失業者増」、どちらが原因と結果か
さて、国論を二分した重要な争点の一つが移民問題であったことは、周知の通りである。言うまでもなく、移民人口の比率といった客観的・統計的事実が、そのまま人々の投票行動に反映されるのではなく、移民問題に関する投票者の「理解」や「解釈」の役割が重要である。事実、移民の多い地域で必ず離脱派が多かったとは限らず、移民の比率が必然的に高いロンドン等の大都市部では、残留派が多数を占めた。
問題は、比較的近年になってEUに加盟した国々、それも経済的困難を抱えた地域からの移民が急激に増加した地方で、低賃金労働の多くが移民に占められたり、医療・福祉・教育などの公共サービスを受ける権利が、EU圏出身を理由に行使されたりすることへの反感、さらには文化や習慣の違いによる摩擦が、離脱への要求を呼んだことにあったという。つまり、こうした地域の旧来からの住民からすれば、移民の流入が問題の「原因」で、失業や公共サービスの低下はその「結果」だというわけである。
しかし、逆の因果関係も考えられる。つまり、貧困地域から移住してきた非熟練労働者が、職を得たり比較的安い生活費で過ごしたりできるのは、先端技術産業が闊歩し物価も高い大都市圏ではなく、産業の衰退や若年人口の減少が進む地域の方かもしれない。いわば、そうした地域が自ら移民を招いたという順序関係も、少なくとも論理的には考えられるのである。
もっとも、経済状況や雇用といったマクロレベルの現象を、その道の専門家でない一般人(心理学者である筆者も含めて)が、このように両面的に理解することは概して難しい。目につきやすく「あれが原因だ」とわかりやすいケースが標的となることの方がむしろ普通である。まして、失業や犯罪の増加といった、憤りや不安などの感情が喚起される問題では、さらにこの傾向が強まりやすい。