世の中のことを考えると、経済も政治も文化も常に変わり続けている。もちろんそれらを支える人間も常に変わっていきます。
たとえば、「ダウ平均」というアメリカを代表する優良30銘柄で構成される株価指数がありますが、発足当時(100年以上前)から現在まで同一名称で採用されている銘柄は、GE(ゼネラル・エレクトリック)ただ1社。ほかは全部入れ替わっています。それが世の中の常なのです。
――人の心も同じなんでしょうか。
そうです。たとえば、熱烈に恋愛している男女がいる。そのときはお互いに心から信頼し合っているわけですが、その後、別れるケースは星の数ほどあるでしょう。
――それはたしかにそうですね……。
男女関係だけではありません。学生時代に親友と仲たがいしたような経験は誰でもあるはずです。
変わらないケースももちろんあります。ただ、その割合は極めて少ないのです。信頼関係が続けば「ああ、もうけものだな。ありがたいな」と思わなくてはいけません。
――そうだとしても、自分を裏切った人間と、気持ちよく仕事ができますか? そんな方法があれば教えてほしいです。
あなたが冷静になれないのならば、それは裏切られたことにショックを受けているからでしょう。でも、「人の気持ちは変わるのが普通だ」ということがわかっていれば、ショックは少ないはず。あなたはこれまでと同様、どんな相手に対しても誠実に、正直に接して、信念を持って仕事をすればいいのです。
相手が本当にあなたを裏切ったのなら、相手のほうがあなたより気まずく感じているはずですよ。人間は誰でも良心がありますから、騙すより、騙されるほうが楽なはずです。
――出口さんは、裏切られたと感じたご経験はありますか。
たくさんあります。
たとえば僕がかつて、同期で最初に部長になったときには、山ほど祝電が届きました。でも子会社に行くことになったときは10通も来なかった。
「人の気持ちは変わる」という事実を知らなければ、ショックを受けたでしょう。でも、変わるのが当たり前だと知っていれば、「自然の摂理の通りだな」と平静でいられます。
――でも、変わらない友情や信頼の物語もたくさんありますよね。
現実には少ないからこそ読まれるのです。ありふれていたら、誰も信頼の物語など読みません。
――……出口さんがそのように達観されるようになったきっかけは?
何度もフラレたからでしょうか(笑)。本当はおそらく、たくさん本を読んだからでしょう。
Answer:「変わらない信頼」なんて、GE社ぐらいにレアなものです
ライフネット生命保険会長兼CEO
1948年、三重県生まれ。京都大学卒。日本生命ロンドン現法社長などを経て2013年より現職。経済界屈指の読書家。