先日、ある中小企業の社長から相談を受けました。

経理部の社員で、税理士の資格も持っていて仕事は完璧なのですが、人間関係が苦手で、ゴマすりはおろか、社内の飲み会にも参加しない。もう少し人間としての幅を広げてあげようと配置換えを提案したところ「嫌です。私はこの仕事しかしません」と言われて困っている、と。

――出口さんはどうアドバイスされたんですか?

「本当に困っていますか?」と聞きつつ、「よく考えてください。仕事は完璧なのでしょう。人間関係は、仕事の本質ではありません。何の問題があるのですか。社長がドシッと構えて、今の仕事で使い続ければいいではないですか」と。社長は「そう考えるとすっきりしますね」とおっしゃっていました。

――なるほど。

「良い社員」とは、「短時間で優れた成果を上げられる社員」、要するに、労働生産性が高い社員です。仕事ができたうえで、人間関係もうまくできるに越したことはないですが、ウエートで言えば、仕事の能力が9割で、人間関係は1割ぐらいだと思います。

プロ野球でも、ホームランを打つ選手は使われます。人間関係が上手な人が活躍しているわけではありません。

――野球みたいに競争が激しい世界ではそうかもしれませんけど、僕の会社はどちらかというとぬるま湯で……。

特別なことをしなくてもビジネスが成り立っているような大企業の場合、情実や好き嫌いで部下を評価する上司がいるかもしれません。「好き嫌いで意思決定しても、試合で負けない」という余裕がありますから。ただ、今の日本の状況を考えると、そうした超過収益が出るような企業は減りつつあります。

仮に、あなたの会社が情実評価をする余裕がある会社だとしても、好き嫌いが大きな意味を持つのは、あくまで上層部の話。ある大企業では「部長までは実力。役員からは社長の好き嫌い」と社内で言われていました。一党独裁の中国共産党ですらそうです。大幹部になるまでは厳しい競争社会で、人望や能力、人格が厳しく問われます。ただ、省長ぐらいまで出世した後は、上司の好き嫌いのようですが。

ですから、これからのビジネスパーソンは、野球選手と一緒です。バッターボックスに立てばいつでもホームランを打つぐらいの力があれば、必ず活躍できます。もちろん、能力や成果が同じなら、ゴロニャンと寄ってきて、口が上手な部下のほうがかわいがられるでしょうが、その程度です。仕事を一所懸命やっているのに、認められないということはありません。頑張ってください。

Answer:仕事の能力が9割、人間関係は1割です

出口治明(でぐち・はるあき)
ライフネット生命保険会長兼CEO

1948年、三重県生まれ。京都大学卒。日本生命ロンドン現法社長などを経て2013年より現職。経済界屈指の読書家。
(構成=八村晃代 撮影=市来朋久)
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